ハッブル宇宙望遠鏡が「最遠の星」発見 なぜ129億年前の微弱な光を捉えたか

重力レンズとは、アインシュタインが予測した宇宙現象だ。彼が説いた一般性相対理論によって、重い天体の重力圏では光も曲がることが証明されたが、つまり今回の場合、ハッブル宇宙望遠鏡とエアレンデルの間には、巨大な銀河団WHL0137-08が存在していて、その重力による重力レンズ効果の発生が、今回のエアレンデルの観測を実現させたのだ。銀河団とは、複数の銀河がお互いの重力によって集団化した天体のことである。

図の右下に地球(Earth)、左上にエアレンデル(図では「galaxy」)がある。その間にある銀河団の重力によって空間が曲がり、レンズのような役割を果たす。すると、そこを通る光が屈折し、エアレンデルの微弱な光も地球近傍から観測できるようになる(NASA, ESA, STScI)
図の右下に地球(Earth)、左上にエアレンデル(図では「galaxy」)がある。その間にある銀河団の重力によって空間が曲がり、レンズのような役割を果たす。すると、そこを通る光が屈折し、エアレンデルの微弱な光も地球近傍から観測できるようになる(NASA, ESA, STScI)

銀河団の重力は強大なので、その重力圏を直進しようとするエアレンデルの光は屈折する。すると、本来であれば銀河団の影に隠れて地球からは観測できないエアレンデルの光が、地球からも見ることができるようになる。

また、エアレンデルの光は、複数の経路を通過して再度集まるため、実際の光よりも増幅されて光度が増す。こうした重力レンズ効果によってエアレンデルの微弱な光は、ハッブルによって捕捉することが可能となったのだ。

ハッブルの広視野カメラ3(WFC3)によって2007年に撮影された銀河LRG 3-757。地球からの距離は11億光年。この画像では重力レンズ効果の成果がより明確に理解できる(NASA, ESA, STScI)
ハッブルの広視野カメラ3(WFC3)によって2007年に撮影された銀河LRG 3-757。地球からの距離は11億光年。この画像では重力レンズ効果の成果がより明確に理解できる(NASA, ESA, STScI)

NASAのレポートでは、以下のように説明されている。

「アインシュタインが予測した重力レンズは遠い宇宙をのぞく機会を与えてくれます。地球と遠くの光源の間に物体があると、その光が曲げられて地球に届き、拡大レンズのような働きをします。今回の発見では銀河の巨大な集団が重力レンズの役割を果たし、エアレンデルの光を数千倍に強めてくれた。この現象とハッブルによる9時間の観察、さらに国際チームからなる天文学者の英知が、今回の発見をもたらしたのです」

今後、ブライアン氏をはじめとする国際チームとNASA、ESAなどは、エアレンデルの光をさらに詳細に調査するため、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測も予定している。エアレンデルの光が、近接した2つの星(連星など)からでなく、単一の星(シングル・スター)であることを確かめるためだ。その調査によって、エアレンデルの温度や質量、化学組成が判明する可能性さえある。

「この星は、宇宙が重元素で満たされる以前に形成されたと思われます。そのためジェームズ・ウェッブでの観測によって、この星が主に、原始的な水素とヘリウムからできていることが判明するかもしれません」

退役前の功績

運用から33年目を迎えるハッブル宇宙望遠鏡は近年、システム障害が頻繁に発生し、昨年10月にもスリープ状態に陥っている。その役目を継ぐため、昨年12月にはジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が打ち上げられたのだが、もしかしたらこのエアレンデルの発見が、両機をつなぐ最後の懸け橋となるかもしれない。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、太陽と地球のラグランジュ点L2への投入が完了し、現在は本格運用に備えてレンズ調整が続けられている(Adriana Manrique Gutierrez, NASA Animator)

【宇宙開発のボラティリティ】は宇宙プロジェクトのニュース、次期スケジュール、歴史のほか、宇宙の基礎知識を解説するコラムです。50年代にはじまる米ソ宇宙開発競争から近年の成果まで、激動の宇宙プロジェクトのポイントをご紹介します。アーカイブはこちら

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