ロシアによるウクライナへの侵攻で、ウクライナと関係のある人たちから戦況を危惧する声が上がっている。その一人、ウクライナ南部のクリミアで大豆栽培に携わった青森県つがる市の農業、木村慎一さん(71)は「何があっても人の命を奪うことは断じて許されない」と事態を憂慮している。
木村さんとウクライナとの関わりは、2007年にパリで開かれた農機具の展示会だった。一緒に展示会に参加した知人と話しているうちに世界的な気候変動などに伴う食糧危機に問題意識を共有し、解決策として大豆に着目。欧州の穀倉地帯ウクライナのチェルノーゼムと呼ばれる肥沃(ひよく)な土地に魅了された木村さんは、穀物や農地代の高騰など紆余(うよ)曲折を経て、11年まで日本と行き来しながら現地の農家の献身的な協力もあって大豆栽培に取り組んだ。「ウクライナの人たちは日本を尊敬している。侵攻が始まって当時の通訳者に電話したが、つながらない」と気をもむ。
クリミアは14年にロシアに併合され、追い打ちをかけるようにその8年後に国全体が戦闘状態になるとは想像だにしなかった。ウクライナは世界でも有数の小麦の輸出国とあって「懸念されるのは農地やインフラの破壊による穀物相場への影響。大豆畑もどうなっているのか…」と連日、報道される現地の様子に表情を曇らせる。
ウクライナ情勢が日本にさまざまな影響を及ぼす中、木村さんは日本が果たすべき役割として「焦土化したウクライナを立て直すために日本が貢献できる分野は農業。インフラ整備には何年もかかる。戦争が終結した後、農業指導のため、技術者や研究者を派遣することもできるのではないか」と強調する。
現在、大豆やコメ、リンゴなどの生産を手掛ける木村さん。今はただ、一刻も早く戦争を終結させ、ウクライナ国民の日常が戻ることを切に願っている。