第94回選抜高校野球大会が開幕し、開会式に続いて1回戦3試合が行われた。春夏通じて初出場の和歌山東は倉敷工(岡山)に、延長十一回、8―2で勝利。1―1で迎えた十一回に一挙7点を勝ち越した。
1―1の延長十一回無死一、二塁。小雨が降る中、森岡が振り抜いた打球は詰まりながらも右前へと転がった。均衡を破る一打が、和歌山東に新たな歴史をもたらす。初出場初勝利に、米原監督は満足げだった。
「新鮮な気持ちで、いかにこの子たちが力を出してくれるかを考えた。和歌山東高校野球部に新しい1ページを刻んだ」
六回の併殺打の間に同点に追いつくと、延長戦へ。先頭の瀬村が出塁するや即座に代走・平川。山田の三塁内野安打でしぶとく一、二塁とチャンスを拡大すると森岡だ。バントもありうる場面だが、サインは迷わず「打て」。昨秋の公式戦でも犠打0のチーム最強打者を信じ、森岡もその思いに応えた。
チームスローガンは『魂の野球』。「持っているものを全て出す」と指揮官は説明する。八回1死一、二塁のピンチ後には左の田村、山田が先発・麻田と入れ替わって登板。4ポジションをこなした麻田が最後は締めた。まさに〝全て出す〟野球で勝利をつかんだ。
古豪・和歌山商を2007年の選抜大会に導いた指揮官が、和歌山東に赴任したのは野球部が軟式から硬式に移行した10年。当時は真面目に練習する選手は少なく、最初の3年間で残ったメンバーは4人だった。掃除やあいさつなどグラウンド外の指導から徹底し、甲子園へとたどり着いた。「今思えば、アッという間」の12年間だった。
「この1勝はうれしいが、ベスト8を目指しているので、喜びは爆発させません」
ベンチでは中央で仁王立ち。智弁和歌山などを率い、甲子園春夏通算68勝を挙げた名将・高嶋仁氏をほうふつさせるが「まねしただけです」と笑う。次戦は24日の2回戦で浦和学院(埼玉)と対戦する。「魂の野球」で突き進む。(北池良輔)
■米原 寿秀(よねはら・としひで) 1975(昭和50)年1月24日生まれ、47歳。大阪府出身。和歌山商、立正大では捕手。民間企業で務めたのち、和歌山商で部長、コーチ、監督を歴任。2007年には監督として選抜大会に出場。2010年に和歌山東で監督就任。保健体育科教諭。
◆延長十一回に2点打を放った和歌山東・此上主将 「自分たちの力を出せば絶対に負けることはないと思ってやっていた。まだ100%、魂の野球を出せてはいないけど、少し見せられたのは最後(延長十一回)の得点シーンだと思う」
◆延長十一回無死一、二塁で決勝の右前適時打を放った和歌山東・森岡 「前半は自分の打撃ができていなかった。気持ちだけは負けずにいこうと思って打席に入った」