ロシアによる侵攻が続くウクライナで、世界有数の輸出量を持つ農業への影響が深刻化しつつある。露軍による占領や攻撃への懸念から農作業が行えないだけでなく、農業機械の燃料や働き手の不足、さらに輸出拠点の黒海沿岸の港も機能していないためだ。産経新聞のオンライン取材に応じたタラス・ゾーバ農業食料副大臣は「世界の食料市場に甚大な影響を与えかねない」と述べ、早期の戦争終結に向け国際社会からの対露圧力の強化を訴えた。
ウクライナは国土の約7割が農地で「欧州の穀倉」とも呼ばれる。国連食糧農業機関(FAO)によると2020年、ウクライナは主に食用油として使われるひまわり油の輸出量が世界1位だったほか、トウモロコシが4位、小麦が5位などとなった。小麦はその多くが北アフリカや中東、アジアの発展途上国に輸出されており、供給不安はそれらの地域に深刻な影響を与えかねない。
ゾーバ氏は露軍の侵攻により「一部地域では農地が占領されたり、地雷が敷設されたりして農作業ができなくなった」と指摘。露軍が農業機械を接収するケースもあるという。さらに、機械の稼働に必要な燃料も「ロシアから輸入していたので不可能になった。燃料貯蔵施設への攻撃も起きている」と話す。
ウクライナでは間もなく春の作付けの季節を迎えるが、「農民がウクライナ軍に参加するケースもあり、働き手も不足している」。農作物の輸出拠点となる黒海沿岸の港も「大半が封鎖されている」といい、「ひまわり油やトウモロコシ、大豆の輸出に甚大な影響が出ている」と明かす。
ゾーバ氏は、今年のウクライナの農産物生産量がどれほど減少するかは「まったく想像できない」と指摘。ウクライナ国内では、昨年からの貯蔵分もあり食料不足は防げるとの見方を示しつつ、輸出量の減少が「世界の食料価格の大幅な上昇をもたらしかねない」と警告する。
そのうえで「この状況が長く続くほど事態は悪化するだけだ」とし、「国際社会はロシアの侵攻を食い止めるために、迅速に行動を起こすべきだ」と語った。
ゾーバ氏は日本に対しても、「日本は食品加工で高い技術力を持つ。ぜひウクライナの農産物を使って、付加価値の高い新たな食品の開発に取り組んでほしい」と述べ、戦後のウクライナの農業復興に向けた支援を訴えた。(黒川信雄)