それだけではない。日米欧主導の強力な経済制裁で、ロシア通貨のルーブルが大暴落した。西側諸国への送金禁止などで、国内経済は音を立てて壊れつつある。
苦しむのは前線の将兵だけではない。ロシア国民がソ連崩壊時に経験した「経済崩壊」という塗炭の苦しみを再び味わわされるのである。
ロシア国民はソ連崩壊後、西側の自由経済という旨味を覚えてしまった。困窮する生活への不満の矛先となるプーチン氏が、内政面でも窮地に追い込まれるのは時間の問題だ。
ロシアは歴史的に、フランスのナポレオン、ドイツのヒトラーに代表されるように、外敵との「祖国防衛戦争」を戦ってきた。敵を広大な領土に深く引き込んで補給路を断つ。さらには、冬将軍の力を借りて敵を撃退する「持久戦」を得意としてきた。
経済力に裏付けされた兵站なくして、ロシアの勝利がないことは自明の理だ。プーチン氏はキエフ陥落という戦術で勝てたとしても、ウクライナ全土制圧という戦略で負けるだろう。
■佐々木類(ささき・るい) 1964年、東京都生まれ。89年、産経新聞入社。警視庁で汚職事件などを担当後、政治部で首相官邸、自民党など各キャップを歴任。この間、米バンダービルト大学公共政策研究所で客員研究員。2010年にワシントン支局長、九州総局長を経て、現在、論説副委員長。沖縄・尖閣諸島への上陸や、2度の訪朝など現場主義を貫く。主な著書に『チャイニーズ・ジャパン』(ハート出版)=写真、『日本が消える日』(同)、『日本復喝!』(同)など。