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野口憲一(民俗学者、農業法人役員) 高度な農業技術守りたい

産経ニュース
(本人提供)
(本人提供)

1月に『「やりがい搾取」の農業論』(新潮新書)という本を出版した。日本の農家が長年かけて培ってきた高度な技術力に適正な価格をつけ、農業を持続可能なビジネスとして変革していくための方法を考えたのが本書だ。

これまで、農家の技術の重要さや自然の大切さを強調するのは、農業の収益性についてはほとんど関心がない人々だった。一方で、収益性を強調する人々は、機械化や合理化という観点ばかりを強調してきた。しかし、機械化と合理化を進めて高収益を達成しようという農業経営においても農家の技術力は必要不可欠だ。「植物工場」でさえ、経営的に成功するためには農家の技術力が必要になるというのだ。

例えばスーパーで売られているカイワレ大根に着目してほしい。一本一本の長さがきれいにそろっていることに気付くだろう。カイワレ大根は、「植物工場」で栽培される代表的な品目の一つだが、その長さがそろっているのは、機械管理のノウハウではなく、農家が長年かけて培ってきた技術力の賜物(たまもの)なのだ。そこには日本の農家が長年かけて培ってきた確かな技術力がある。

しかし、本来は農業経営のど真ん中であるべきであるはずの、農家の持つ技術の重要性はほとんど顧みられてこなかった。結果的に農家の技術という大切な経営資源は、経営資源であるという認識すら持たれず軽視され続けてきた。

この状況を変革するために、一部の品目を除いて安価な商品で構成されている農産物マーケットに、高価格の商品を加え、ピラミッド型の価格構造を取り入れることを主張したのが本書である。高価なワインの存在が安価なワインの価値までをも守るように、高価格帯の農産物の存在こそが農家の技術力の価値を守ると考えるからだ。

民俗学者でありながら農業経営にも携わる私は、実際に「1本5000円レンコン」という常識外れの価格設定のレンコンを売れる商品として作り上げた張本人である。近年は、この理論を他の農家にも広めようと考え、一流の技術を持った農家の仲間たちと、ラグジュアリー農産物ブランドを立ち上げようと尽力している。題して「柳蓮(やなぎ)田」プロジェクト。柳蓮とはレンコンの原生種。先祖が苦労してレンコン栽培技術を培ってきたことに思いを馳(は)せて名付けた。

さらに、農家の高度な技術力に支えられた農産物を、海外にも広め、国内外にラグジュアリー農産物マーケットを構築したいと考え、一流の技術を持った農家の栽培する農作物を海外へ紹介する活動もライフワークとして行っている。このことが日本の農家が長年培ってきた技術を守ることになると確信しているからだ。

【プロフィル】野口憲一

のぐち・けんいち 昭和56年、茨城県出島村(現かすみがうら市)生まれ。日本大大学院社会学専攻博士後期課程修了。博士(社会学)。専門は民俗学、食と農業の社会学。日本大文理学部非常勤講師。民俗学と社会学の研究に加え、レンコン栽培や販売を行う農業法人経営者として農業の価値向上のための活動に取り組む。著書に『1本5000円のレンコンがバカ売れする理由』。

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