140年前の版木が物語る月夜の梅渓の名文

産経ニュース
店じまい後の整理で見つかった『月瀬記勝』の版木=奈良市の豊住書店(豊住勝輝さん提供)
店じまい後の整理で見つかった『月瀬記勝』の版木=奈良市の豊住書店(豊住勝輝さん提供)

奈良市の月ケ瀬梅林が、国の名勝に指定されて今年で100年。梅の名所として全国に知られるきっかけとなった江戸時代後期の紀行文「月瀬記勝(つきがせきしょう)」の140年前の版木が、昨秋に閉店した同市の老舗書店で見つかった。月ケ瀬梅の資料館(同市)は「名勝たらしめた版木」とさっそく展示。一方、版木の発行元は書店創業地の伊賀上野(三重県伊賀市)で、同市の岡本栄市長は「近世伊賀の文化度を伝える宝。わが市に寄託を」とラブコールを送る。

名文、教科書にも

月ケ瀬の梅の歴史は鎌倉時代にさかのぼる。伝承によると、元久2(1205)年に真福寺境内の菅原道真を祭神とする天神社に梅の木が植えられたのが始まり。

南北朝時代直前の後醍醐天皇笠置山落城の折、側女(そばめ)が月ケ瀬に逃れて村人に救われ、お礼に烏梅(うばい)の作り方を教えたことから梅林の里になったとも伝わっている。

熟した梅の実にすすをまぶして燻蒸(くんじょう)した烏梅は、紅花染めの発色剤として京都や大坂の染物屋に送られて一大産業となり、江戸時代に大梅林が形成されることにもつながった。

「月瀬記勝」は、藤堂家の津藩の儒学者、斎藤拙堂(せつどう、1797~1865年)が文政13(1830)年、総勢14人で月ケ瀬を旅した際の紀行文を中心とする作品だ。

有名なのは、拙堂が梅と月をあわせて見ようとした場面。月ケ瀬の梅の花は見頃だったが日が落ちると黒雲が天を覆い、拙堂はがっかりして酒を飲む。

一行の風流人たちも吟詠や書画で愁いを晴らしていると、従者が「雲が破れ月が出た」と知らせに来た。杯を捨てて眺望の良い真福寺に走り出すと、幻想的な風景が目の前に現れる。

《枝枝(しし)月を帯び、玲瓏透徹(れいろうとうてつ)、影尽く横斜(おうしゃ)、宝鈿玉釵錯落(ほうでんぎょくささくらく)して地に満つ》

名勝指定100周年を迎えた月ケ瀬梅林の風景(ト井繁夫さん撮影)

そんな描写で始まる月夜の梅渓の一節は名文としてとくに名高く、嘉永5(1852)年から、明治の中頃まで何度も出版されロングセラーとなった。昭和初期には師範学校の漢文の教科書にも用いられた。

月ケ瀬梅渓保勝会の窪田良蔵理事長は「これを読んだ人々が、拙堂の書いた光景を見ようと月ケ瀬にやってきた。『月瀬記勝』の携帯用ポケット版が出版されたほどの大きな反響でした」と話す。

貴重な一点もの

今回版木が見つかった老舗書店は、近鉄奈良駅に近い豊住(とよすみ)書店(奈良市東向北町)。

歴史系の本に強く研究者の常連も多かったが、昨年8月に店主の豊住勝郎さんが85歳で亡くなり、10月に次男の勝輝さん(56)が店じまいをした。

勝輝さんによると、豊住書店の創業年は不明だが、伊賀上野で文化13(1816)年には存在していたことが確認できるという。当時は出版も手がけていたとされる。

店はその後、現在の場所に移った。閉店の片付けの際に『月瀬記勝』の版木が32枚見つかり、それ以外にも大量の版木が残されていた。

版木研究の第一人者で奈良大学の永井一彰名誉教授は「版木が使われた時代の関西で、主に出版が行われていたのは京都と大阪。奈良でこれだけ残っているのは驚きで保存状態も理想的だ」と話す。

文化都市の象徴

永井名誉教授は「版木は奉行所の許可を得てようやく彫ることができる出版権で、二つとない貴重なもの。彫師や刷り師ら職人の分業制で成り立っており、書店というより出版社のイメージに近い」と指摘する。教養をもつ人々の需要がなければ成り立たない商いであったという。

奈良女子大の磯部敦准教授(近代日本出版史)も「『月瀬記勝』は結果的に広範囲で読まれたが、もともとは地域の読書階級の需要に応えるものだったのだろう」と話す。

地方都市である伊賀上野にそんな需要があったのかとの疑問も浮かぶが、「もちろんあった」と伊賀市の岡本市長は強調する。

岡本市長によると、10代藩主の藤堂高兌(たかさわ)が伊賀、大和、山城に住む子弟を教育するため、文政4(1821)年に城下町の伊賀上野に建てた崇広堂(国史跡として現存)はその象徴。松尾芭蕉(1644~94年)を生んだ伊賀上野は武士も町人も俳句をたしなみ、崇広堂を中核に西洋医学などの学問も盛んな文化都市だったと語る。

「豊住書店は城下町に数軒あった書肆(しょし、出版も行った書店)の一つで、見つかった版木は奥書の部分に『発兌(はつだ、発行)人 伊賀上野中町 豊住伊兵衛』と書かれ、大変うれしい。当時の活発な文芸活動を物語る大事な証しだ」と「里帰り」を心待ちにしている。(川西健士郎)

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