「つらく、悲しかった。残りの人生を幸せに暮らしたい」。旧優生保護法による強制不妊手術をめぐり、東京高裁が11日、国に賠償を命じる判決を出した。東京都内で記者会見した原告の男性(78)はこれまでの道のりを振り返り、かみしめるように語った。
男性は昭和32年、宮城県内の児童自立支援施設に入所していた14歳だったとき、旧法に基づく不妊手術を受けさせられた。術後の痛みに苦しむ中、施設の先輩から「子供が生まれないようにするもの」と聞かされたが、詳しい説明はなかった。
その後、結婚したが、手術のことを妻に打ち明けることはできなかった。子供ができないことを周囲に責められ、産婦人科を訪ねて「元の身体に戻せないか」と相談したこともあった。葛藤を抱え続け、平成25年に妻が病気で亡くなる直前に、事実を打ち明けたという。
平成30年1月、仙台市内の女性が旧法をめぐり初めて訴訟を起こしたことを知り、「自分の手術と同じだ」と直感。役所に自身の手術記録の情報開示請求を行ったが、保存期間の満了を理由に破棄されていた。「なぜ、自分が手術を受けなくてはいけなかったのか」。真実を求めて、同年5月に提訴に踏み切った。
11日、男性は控訴審の法廷で、判決の読み上げを時折小さくうなずきながら聞き入った。裁判長が語った異例の所感については「私に向き合ってくれたことがうれしかった」と、万感の思いで受け止めた。
「被害者は高齢化が進んでおり、裁判の途中で亡くなっている原告もいる」。男性は会見でこう語り、「国は上告せず、被害者に向き合い、一日も早く解決に向けて動いてほしい」と呼びかけた。
記者会見に同席した原告代理人の関哉(せきや)直人弁護士は「今後の法改正に大きな力になる」と評価。全国被害弁護団の新里(にいさと)宏二共同代表も「やっと司法が被害と向き合った。政府や国会は一刻も早く、解決のためのテーブルにつくことが不可欠だ」と求めた。