朝晴れエッセー

幸せのちらしずし・3月4日

産経ニュース

郷里から父が訪ねて来るという。届いたはがきには用件は書いていなかった。私は定職に就いたばかりの22歳で、1つ年上の彼女と同棲をしていた頃のことである。

その日、彼女は早朝からちらしずしを作り始めた。錦糸卵が華やかで酢がきいてうまい。特別な日に作る得意料理である。

父は昼過ぎにやってきた。私はいぶかしい気持ちで狭いアパートに迎えた。そのとき、何を話したか覚えていないが、突然父が「お前たち結婚しろ、式は段取りする」と言った。私はいきなりゲンコツをくらった気がした。そして黙ってうなずいた。台所に立った彼女の顔は見えなかった。

小さなテーブルにちらしずしが並んだ。静かな食事が終わって、父は用事は済んだとばかりに帰っていった。帰り際に「ありがとう、ごちそうさん」の言葉を残して。

その後、私たちは籍を入れた。結婚式は郷里の古い旅館であった。窓の外に少年の頃泳いだ琵琶湖が春の光に輝いていた。

太平洋戦争の戦地から生きて帰り、病気知らずで偉丈夫だった父が74歳で亡くなった。心不全だった。あるとき、母が父の思い出話をした。「父さんは好き嫌いはなかったけど、お酢はダメやったね」と。

私はあの日、静かにちらしずしを食べていた父を思い浮かべた。そして「ありがとう、ごちそうさん」の言葉は彼女への思いやりだったのかと。

以来、彼女は幸せの数だけちらしずしを作ってきたようだ。子供の誕生日、孫たちの節句祝いに。私には酸っぱい思い出の味だが、その食べる姿が天国の父と似てきたような気がするこの頃である。

草野弥平(69) 東京都国分寺市

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