聴覚サポートの必要性を眼鏡と同等に
オリーブユニオンによると、日本の難聴者の数は1500万人を突破し、8人に1人の割合で発症している。しかし発症者に対する補聴器の普及率はわずか14%。4割に達している欧米と比べてもその違いは歴然だ。
補聴器が普及しない要因として指摘されているのが、補聴器に対する聴覚障害のイメージや、専門店を必要とするメンテナンスの難しさ、そして商品選びにおける種類の多さと価格帯のばらつきといった問題だ。オリーブユニオンのオーウェン・ソン代表取締役は日本のこうした現状に、「優れた技術をもつ企業が多いにも関わらず、難聴や聴覚障害の分野では技術開発が遅れている」と驚きを隠さないが、一方で未成熟な市場だからこそ「ビジネスチャンスがある」と見る。
オリーブユニオンが開発した聴覚サポート器具は、補聴器ではなく「スマートイヤホン」との位置づけ。利用者が心理的負担を感じないワイヤレスイヤホンタイプのデザインと、スマートフォンアプリを使って自分で音を細かく最適化できるといった点が特徴だ。補聴器や集音器とは異なる次世代型の“補聴”イヤホンで、補聴器市場が成熟している米国や韓国でも注目を集めている。
気軽に試せるトライアルの仕組みや月額定額制のサブスクリプションサービスを導入するなど、補聴器利用の敷居を下げる取り組みも展開している。さらに今春以降はサブスクに加えて販売も強化。最新モデル「オリーブスマートイヤープラス」は77,000円で、補聴器市場では比較的リーズナブルな価格を打ち出している。
「聴覚サポートへのニーズを、視覚を補う眼鏡と同等にしたい」というソン氏。SPA(製造小売業)型のビジネスモデルで低価格化とデザイン性の向上に成功し、ファッションにまで上り詰めた日本の眼鏡ブランドを例に、「補聴器市場が未成熟な日本の市場にはそのポテンシャルがある」との見方を示す。敢えて「補聴器」でなく「スマートイヤホン」という名称を使うことには、こうした新たなサービスで従来の補聴器のイメージと一線を画したいという思いも込められている。
養老乃瀧の事例のような企業向けのヘルスケアプログラムは、飲食業界と同じくシニア雇用が拡大しているタクシー業界でも展開する予定。聞こえの仕組みに関するセミナーを開くだけでなく、希望者には最新機器を優待価格でレンタルする。ソン氏は「シニア雇用の拡大とともに聴覚サポートの需要を開拓し、日本の(補聴器の)普及率を高めたい」と意欲を語る。
池田名誉教授は「難聴は認知症の発症にも密接に関係していることがわかっており、今後のさらなる高齢化に向けて補聴器の普及は社会的課題。使いやすい機器の登場は、早期予防の観点からも難聴の問題にブレイクスルーを起こせる可能性がある」と期待を示している。