昆虫の生体画像を撮影するエピソードの最終回となります。今回はいよいよ画像の編集作業。前回解説した通り、白バック写真を完成させるためには、撮影後の画像をさらに加工する必要があるのです。
まずは画像の選定です。私はカメラを持ち始めたときからデジタル世代。フィルムカメラ世代の方には怒られるかもしれませんが、とにかくシャッターを押し、数多く撮影をします。その中からピントの合い具合や光の加減、ポーズなどを考えつつ最も出来の良い画像を選びます。
次に画像編集ソフトを用いて各種操作をします。最も大切なのは、背景を純白にすることです。昆虫を撮影する際はできる限り白い背景を用意します。ただ、完全な純白は撮影直後の生データではまず得られません。そこで、「ここが白色だよ」という場所をこちらで指定することで色味を修正します。
その後はコントラストを調整し、不要な部分をトリミングして画像の完成。最後に大切な作業がもう一つ。完成した画像にも標本と同じくラベルや管理番号を付加し、いつでも活用できるようにしておきます。
以上が編集作業の概要です。ここで重要なのは、加工のし過ぎは禁物ということ。確かに画像編集ソフトは便利ですが、それ故に危ない。現物とはかけ離れた色彩に変え、存在しない模様(もよう)を与え、元々の特徴を失わせれば存在しない種をでっちあげることさえも可能です。
さすがにそんなことはしません。ただ、画像としての見栄えしか考えず、意図せずに変な色調にしてしまうことがあるかもしれませんから、十分に実物と見比べたりしながら作業することが大切なのです。
このようにして作製した画像が現在までに約8千点あります。1種につき、平均3点の画像を収集するため2600個体ほど撮影したことに。成虫だけでなく幼虫やさなぎも含まれますし、昆虫以外の生物もあります。これらは記憶媒体に保存され、活用される機会を静かに待っています。
これまでの活用例としては、生体を解説する種名札や行事のテキスト、出版物で活用した実績があります。ですが、使用した画像はおそらく1割にも満たず、私の在職中には日の目を見ないものもたくさんあることでしょう。
それでも、少しでも多くの種や発育段階を撮影することで展示活動などの材料が増えれば心強いですし、誰かに活用していただければ光栄です。津々浦々の博物館で掲げられる画像には、それぞれの物語がありますので、それらを想像しながらの観覧も一興かと思います。 (おわり)
(和歌山県立自然博物館学芸員 松野茂富)