朝日新聞は1月29日の社説で日本に女性議員が少ないことを批判し、「各党が足並みをそろえて、比例区の候補者を男女同数にしては」と提案した。
しかし朝日はかねて男女二元論を懸念するコラムや記事を掲載している。昨年7月29日には同紙上で東京大学大学院の林香里教授が「男女二元論で男性と女性を紋切り型に分断する力」を問題視し、「多様な差異(たとえば、トランスジェンダー、難民、貧困者、障害者など)をもとに横につながる力」を肯定的に紹介した。
昨年末には、朝日新聞デジタルで、大みそかの風物詩NHK紅白歌合戦で出演者を男女に分ける方式について論じる記事が出た。そこでは、記者の質問という形で、「どちらにも当てはまらない性的少数者を締め出してしまうという問題点が指摘されています」と疑問を呈した。
男女二元論に懐疑的な記事を何度も掲載しながら、政党候補者を男女同数にすべきだと主張する朝日新聞の姿勢には矛盾を感じる。多様な性の尊重が大切ならば、政党候補者の男女比など問題にしてはならないはずだ。
「見た目の性別」が男であっても性自認が女である可能性を、なぜ一方的に排除できるのか。一見男である彼らの一人一人が、ゲイやバイセクシュアルやトランスジェンダーやクィア(性的少数者全てを総称する言葉)であるかもしれないではないか。朝日こそまさに、「見た目で性別を判断する問題」を作り出しているのである。
昨年9月に東京都教育委員会が都立高校入試での男女別定員制度廃止を発表したことについて、朝日は「『ジェンダー平等に反する』と廃止を求める声が出ていた」と説明した。入試での男女別定員制度がジェンダー平等という観点で問題だとしたら、政党候補者は男女別定員制度を導入せよと主張するのはおかしいのではないか。女性だけに対し、もっと議員になれと圧力をかけるかのような言論はやめていただきたい。私も一女性として非常に迷惑だ。
朝日は1月29日の社説で「女性候補5割」をめざすという立憲民主党と公認候補の約65%が女性である共産党を例示し、「自民党の動きは鈍い」と批判した。
男女二元論批判も男女同数推進論も、結局は反体制運動の道具にすぎないようである。だから朝日は明らかに矛盾するこの両論を、素知らぬ顔で主張しているのであろう。
◇
【プロフィル】飯山陽
いいやま・あかり 昭和51年、東京都生まれ。イスラム思想研究者。上智大文学部卒、東大大学院博士課程単位取得退学。博士(文学)。著書に『エジプトの空の下』など。