心臓移植を待つ子供たちの多くは、弱った心臓を助ける補助人工心臓を装着し、容体を悪化させないよう細心の注意を払いながら命をつないでいる。しかし、こうした患者に対応できる病院は限られている。病院が自宅から離れた場所にあったり、ほかにきょうだいがいたりする場合は、1つの家族が2カ所に分かれる〝二重生活〟を強いられることも少なくない。長期にわたる待機生活。患者や家族が抱える苦悩は大きい。
妹弟に「会いたいな」
小学4年の佐藤陽菜さん(10)=仮名=が故郷の岩手県を離れ、東京都新宿区の東京女子医大病院で入院生活を始めたのは昨年8月のことだった。それから半年。植え込み型の補助人工心臓を装着した陽菜さんは25日に退院し、入院中から付き添ってくれた母の寛子さん(36)=同=と院外で生活を送ることになった。
岩手では父(35)と妹(7)、弟(5)が待っているが、一緒に暮らせる日が来るのはまだ先だ。「お母さんを独り占めできる」。入院中は、そんな強がりを口にしてきた。
とはいえ、妹と弟は入院以降、直接会えていない。「2人に会いたいな」。ぽろりと本音も漏れる。
岩手と東京と
以前は友達と外で遊び回る活発な子供だった。しかし昨年6月、突然原因不明の嘔吐(おうと)と体のむくみに襲われ、状況が一変した。
県内の総合病院で受けた検査の結果は「拡張型心筋症」。長い入院生活の始まりだった。医師には、心臓移植に向けて動き始めたほうがいいこと、さらなる精密検査が必要なことを告げられたが、岩手に対応可能な病院はなく、8月末に東京女子医大病院への転院が決まった。
小学4年の子供を一人で入院させるわけにはいかないが、家族の生活基盤は岩手で、妹と弟の世話もある。一家は、岩手と東京の〝二重生活〟を選んだ。