国際オリンピック委員会(IOC)と国際パラリンピック委員会(IPC)は、プーチン大統領がウクライナへの派兵を命令したロシアを厳しく処分すべきだ。
「平和の祭典」をうたう両大会をロシアほど露骨に踏みにじってきた国はない。派兵命令は北京冬季五輪閉会式の翌日である。国連は五輪開会7日前からパラリンピック閉幕7日後までを「あらゆる紛争の休戦」期間として加盟国に呼びかけている。ロシアは開催国の中国とともに共同提案国に名を連ねていた。
ロシアによる五輪の紛争利用は今に始まったことではない。
2008年北京五輪では開会式当日にジョージアに侵攻した。14年自国開催のソチ冬季五輪では、閉会直後にクリミア半島を奪取した。いずれもプーチン体制による暴挙である。
五輪憲章は根本原則の目的に「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進」をうたう一方で、IOCは「政治的中立」を盾に国際紛争には静観を決め込んできた。だが、こうあからさまに理念を蹂躙(じゅうりん)されては沈黙を続けるわけにはいかないだろう。
前例はある。1990年8月、イラクがクウェートに侵攻した際には翌月に北京で開いたアジア・オリンピック評議会(OCA)の臨時総会でイラクの資格停止を大差で決議し、北京アジア大会から締め出した。同様にヨーロッパオリンピック委員会(EOC)で資格停止とし、IOCがこれを追認してロシアをパリ五輪などに参加させないこともできるはずだ。
そもそもロシアは、ソチ五輪などにおける国家ぐるみの組織的ドーピングや隠蔽(いんぺい)を認定され、今年の12月まで国としての参加を禁じられている。北京大会へは「ロシア・オリンピック委員会(ROC)」所属の選手として個人資格が容認された。こうした中途半端な処分が禍根を残してきた。
モスクワでは21日、帰国したROC選手団の歓迎式典が行われ、北京のメダリストらが顔をそろえた。フィギュアスケート女子でドーピング疑惑に泣いたワリエワの姿もあった。会場では、五輪では禁じられていた無数のロシア国旗や、「ロシア前へ」と大書した紙が掲げられた。この模様が報じられた直後に、プーチン氏は派兵命令のテレビ演説を行った。これを五輪の政治利用という。