論壇時評

3月号 対中外交 普遍的価値の柱を建てよ 論説委員・岡部伸

産経ニュース
北京冬季五輪の閉会式で手を振る中国の習近平国家主席(手前)とトーマス・バッハIOC会長=20日、北京・国家体育場 (桐原正道撮影)
北京冬季五輪の閉会式で手を振る中国の習近平国家主席(手前)とトーマス・バッハIOC会長=20日、北京・国家体育場 (桐原正道撮影)

閣僚など外交使節団を派遣しない、いわゆる「外交ボイコット」が相次いだ北京五輪が閉幕した。人権侵害を見過ごしてはならないという声が国際社会に広がる中で、自由や民主主義、法の支配を守るべき普遍的価値観とする日本は、「内政干渉だ」と反発する中国と、どのように向き合うべきだろうか。

日本は、参院議員、橋本聖子東京五輪・パラリンピック組織委員会会長を派遣する事実上の外交ボイコットを行った。米国と歩調を合わせつつ、最大の貿易相手国、中国を刺激することも避ける「板挟み」で対応が後手に回り、人権に対する姿勢もあいまいなままだった。

欧州も煮え切らない姿勢でまとまりを欠いた。欧州議会が2021年7月、政府代表団派遣取りやめを求める動議を採択したにもかかわらず、欧州連合(EU)として統一歩調を取れず、最終的に独仏を含め欧州の大半は国家元首級を開会式に参加させなかった。

「世界のすべての国にとって、対中関係は多面的であり、何かに関する決定をする際には、他分野への波及について考える必要がある。結果として玉虫色の解決が模索されることが多い」。慶応義塾大学総合政策学部准教授の鶴岡路人は『Voice』で分析しながら、「EU全体としても対中姿勢が厳しくなり、経済や気候変動などでは協力の維持・強化を模索しつつも、価値や安全保障などで譲れない部分が拡大している」と指摘する。

最も経済的結びつきが強いドイツで、中国からの投資や企業買収による技術流出やインフラへの進出、サイバー攻撃へ懸念が高まり、EUでは、投資審査制度拡充や輸出管理強化などの対抗策を取っている。

欧州で中国を基本的価値を共有しない「体制上のライバル」あるいは「脅威」とみなす転換点となったのは、21年3月にEUが米英カナダと足並みをそろえて決定した新疆ウイグル自治区での人権侵害に関する制裁発動だった。

ウイグルの政府・共産党関係者4人と1団体など同じ対象に制裁を発動したが、鶴岡は、「これら諸国間で緊密なインテリジェンス共有が行なわれた」と説く。「個人制裁においてはインテリジェンス収集が重要な位置を占めるから」だ。「収集したインテリジェンスを各国がもち寄り、決定につなげたと考えるのが自然」と読み解く。

米英加は、豪州にニュージーランドを加えた英語圏5カ国による機密情報共有の枠組み「ファイブ・アイズ」の中核国だ。5カ国で共有しているインテリジェンスを対中制裁でEUと共有したことになる。

香港における人権問題でファイブ・アイズは英連邦率いる英国の主導により、共同で外相声明を何度も出すなど政治的協力枠組みとして役割が拡大した。

「ファイブ・アイズと人権は密接に結びついている」と鶴岡は強調する。自由や民主主義など基本的価値を強固に共有する国家の集合体であるファイブ・アイズは、強権国家の中露による現状変更が強まれば、結束強化する必要に迫られるからだ。

人権外交でファイブ・アイズとEUが協調するネットワークが構築されつつある。G7の中で、「日本はそうしたネットワークから外れつつあるようにみえるが、それが日本の国益に合致していると主張することは難しい」と鶴岡は警告を発する。

同盟国の米国と人権問題で立場を異にすることは同盟の弱体化につながりかねない。人権外交は安全保障に直結するだけに日本は人権問題でインテリジェンスを含め欧米と足並みをそろえて協調体制を取るべきだ。その意味で、英国から提案があったファイブ・アイズへの本格参加を検討する時期に来ている。

これまで日本人は軽武装と経済の豊かさの二本柱だけを追求する「吉田ドクトリン」を掲げることが現実主義と理解してきた。しかし、中国の歴史的台頭を前に、『Voice』で京都大学名誉教授の中西輝政は、ファイブ・アイズの諸国が共有する「自由や民主主義、そして法の支配など(中略)外交にもこの価値観の柱を立てることが求められている」と論じ、「それこそがまさに『新しい現実主義』でもある」と訴える。

一方、五輪開催中も中国の軍用機39機が防空識別圏(ADIZ)に進入し、台湾軍機が緊急発進するなど台湾海峡での緊張が高まっている。ジャーナリストの本田善彦は『世界』で「中国は、台湾独立など武力行使を余儀なくされる事態が発生しない限りは軽挙妄動を慎み、着実に台湾を追い詰めようとするだろう」と予想し、「外交や軍事などをハイブリッドに運用した台湾統一をイメージしている(中略)。最も有利なタイミングを待つ」と指摘する。

成蹊大学教授の井上正也も『中央公論』で「明白な軍事侵攻ではなく、ゲリラの浸透工作やサイバー攻撃を組み合わせたハイブリッド戦となる可能性が高い」と述べ、「中国の軍事的挑発の激化が、中国の仕掛ける外交戦の一部になっている(中略)。外交を主軸にすえて、台湾問題の平和的解決を模索する姿勢を崩すべきではなかろう」と外交努力を提言する。

米外交問題評議会会長のリチャード・ハースは、『Voice』で「もしも中国が台湾を攻撃した場合、日本の憲法でどこまでの行為が許されるかについて、抽象的ではなく具体的に何ができるかを議論するべき」と注文する。米軍との連携にとどまらず、日本は何ができるのか。日本自らが解決しなければならない。(敬称略)

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