【ソウル=桜井紀雄】来月9日の韓国大統領選に向けて各候補の選挙運動が正式スタートした15日に、中道系野党「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)陣営で2人が死亡した事故が波紋を広げている。目立つことを優先した安全軽視の中で起きた人災との声も上がっている。与党と最大野党の候補が接戦を演じているだけに、安氏が野党候補一本化に動くのかも依然、注目されている。
中部、天安(チョナン)市の遊説用バスの中で15日、運転手と陣営幹部が意識を失っているのが見つかり、死亡が確認された。バスの側面に設置した大型スクリーンの電源として自家発電機を使っていたが、密閉空間だったために一酸化炭素中毒が起きたとみられる。安陣営では別の地域のバスでも同様の事故があり、1人が重体。警察がバスを改造した業者などを捜査している。
15日以降、選挙運動を中断してきた安氏は18日、幹部の告別式で「どんな逆風にも屈しない」と強調。19日にも選挙運動を再開する方針だが、陣営側も事故の責任を免れられず、打撃からの回復は容易でない。
韓国の選挙では、大型スクリーンを載せ、テーマソングを大音響で流す選挙カーが走り回り、遊説前にはダンスが披露されるなど、派手さを競い合う様相を呈してきた。今回、与党陣営でも大型スクリーンを積んだ車両が横転し、2人がけがをする事故が起きた。
韓国紙の一つは社説で、候補らが「安全な国をつくる」と訴えながら足元の安全をないがしろにしてきたと批判。お祭り騒ぎの選挙運動を見直す契機にすべきだとの指摘も出ている。
安氏は13日に最大野党の候補に世論調査を実施した上での候補一本化を提案していた。最大野党側はこの提案には慎重な立場だが、一本化をめぐる駆け引きにも関心が集まっている。