制御技術に現れる“マツダらしさ”
GVCがそうであるように、KPCも同様に制御のためにセンサーを加える必要はなく、もともと組み込まれている「アンチロック・ブレーキ・システム」(ABS)が監視している車輪の回転差を利用している。新たに付け加えるものは何もないのである。
いわば「省エネ制御」。完璧なアジャストには徹底したテスト走行が繰り返されなければならないが、機構としてはとてもシンプルだ。誤解を承知で言うならば、発想そのものの勝利であり、根底はアイデアの技術なのである。
ドライバーが無意識にこなしている操作を代行するに過ぎない。これによって疲労が低減され、すっきりと雑味のないハンドリングが得られるというわけである。ささやかな制御であることから、劇的な挙動を生み出すことは叶わないが、肩の力を抜いた穏やかなドライビングでは有効であろう。
このシステムの利点はボディ重量が増えないことだ。ともすればフロントヘビーが悪癖をもたらすSUVには都合が良いし、軽量コンパクトを生命線とするロードスターには願ったり叶ったり。追加の付加物がないから、コスト増も招かない。
ロードスターの商品企画では、KPC装置をオプション設定としてユーザーから対価を得ることも検討されたそうだが、もともと重量増やコストの負担を招くことがないため、2022年モデルから全車標準装備としたという経緯がある。
省エネ的な発想で理想的な挙動コントロールを完成させたことは高く評価できる。開発コストの高騰が叫ばれている昨今、いかにもマツダらしい技術のように思える。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。