私はマンション購入の相談をいただくことも多い。1年ほど前、あるご夫妻からの相談は印象的だった。
彼らはすでにマンションを購入して住んでいたが、引っ越したいという。理由は、今住んでいるところが、ハザードマップで水害時の浸水が5~10メートルと指定されていたことにショックを受けたのだとか。だから、すぐにでも…とおっしゃった。
水害を想定したハザードマップというのは、土地の標高を基準に策定されている。当たり前だが、水は高きから低きへ流れる。潮位や川の水位が上がって堤防を超えるなどすれば、標高の低いところは浸水する。
東京都江東区の区役所前には「××年の水害ではこのレベルまで浸水しました」というモニュメントが立っている。優に大人の背丈を超えるところまで浸水していたことが分かるので、ちょっとビックリする。
しかし、だからといってまたやってくるとはかぎらない。江東区で江戸時代からやっているという老舗の釣り舟屋さんを取材したことがある。そこから見える食糧倉庫跡地に開発されたマンションの広告づくりのためだった。
そこのご主人がしみじみと言った。
「あの食糧倉庫ができたときにじいさんが『これで津波はこねえ』と喜んだものさ。そこがマンションに変わるのですか。なおさら津波はこないな」