明美ちゃん基金

心臓移植待機3年、半径2メートルの世界で迎える誕生日

産経ニュース
拡張型心筋症を患い、心臓移植を待つ玉井芳和ちゃん。右手にある小児用補助人工心臓「エクスコア」の駆動装置と、芳和ちゃんの心臓の動きを助けるポンプは約2メートルの長さの管で常につながっている(玉井敬子さん提供)
拡張型心筋症を患い、心臓移植を待つ玉井芳和ちゃん。右手にある小児用補助人工心臓「エクスコア」の駆動装置と、芳和ちゃんの心臓の動きを助けるポンプは約2メートルの長さの管で常につながっている(玉井敬子さん提供)

国内外の心臓病の子供たちを救う「明美ちゃん基金」(産経新聞厚生文化事業団運営)は、来年度から国内で心臓移植を待つ子供たちへの支援を実施する。柱になるのは、移植待機中に必要な小児用補助人工心臓の寄贈と、国内で待機中の子供やその家族への財政支援だ。しかし、移植を待つ子供たちの命を救うためには、何よりも移植医療に対する社会の理解が欠かせない。支援開始を前に、基金は移植医療に向き合う患者やその家族の今を紹介する。


迷う時間なし


同世代の男の子と同じように走り回ることをまだ知らない。家族と会えるのは1日に5時間だけ。半径2メートルの世界から見える景色、聞こえる音の中で、人生の大半を過ごしている。

まもなく4歳になる玉井芳和(よしかず)ちゃんは拡張型心筋症を患い、心臓移植を待つ日々を送る。ドイツ・ベルリンハート社の小児用補助人工心臓「EXCOR(エクスコア)」を装着してから3年。昨年12月には、エクスコアの装着日数が国内最長となった。

「覚悟はしていたが、正直もう少し早く帰れると思っていた」と母、敬子さん(35)は話す。

芳和ちゃんは平成30年2月8日、3人きょうだいの末っ子として福井県で生まれた。周囲の目には元気な赤ん坊に写っていた。

しかし同年10月、離乳食を吐くことから「念のため」と勧められた検査入院で、心臓が大きく、動きが悪いことを告げられた。「最初はそれが大変なことだとは分からなかった」という敬子さんも、拡張型心筋症という病名に行きつき、その意味を知った。「5歳まで生きられないかもしれない」。毎晩、病室で泣いた。

すぐに転院した京都府内の病院で大きな決断を迫られた。心臓移植を目指すか、短い人生となることを受け入れるか。移植を選ぶなら補助人工心臓で命をつなぐ必要がある。小児用のエクスコアは台数に限りがあり、当時、国内で空きがあったのは1台だけ。迷う時間はなかった。

国内での心臓移植を目指すことを決め、国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)に転院。同年12月27日にエクスコアの装着手術を受けた。「念のため」の検査入院から、わずか2カ月ほどだった。


襲うコロナ禍


一家は病院の近くに引っ越し、敬子さんが週に6日、夫の芳英さん(39)が週に1日、病院に通う。病室で一緒に過ごせるのは1日5時間。敬子さんは長さ2メートルの管が届く範囲でしか動けない芳和ちゃんを抱いて過ごす。顔立ちからは成長を感じるが、体はまだ小さいままだ。

移植を目指すことを決めてから3年。希望の光が差したこともあった。平成22年の改正臓器移植法施行を機に、国内の心臓移植は徐々に増加。令和元年には過去最多の84件となった。「波に乗れるかもしれない」。しかし順番は訪れず、反対に新型コロナウイルス禍が影を落とした。

「他にも移植を待つ家族がいる。待機期間が一番長い自分たちが暗くなってはいけない」。先が見えない日々を前向きに過ごそうと思う半面、不安は常に顔をのぞかせる。芳和ちゃんは「状態は基本的に悪くて、さらに下がってまた戻ることの繰り返し」(敬子さん)。別れ際の敬子さんの言葉に反応しないこともある。


2人分の「炎」


敬子さんにはもう一度見たい光景がある。芳和ちゃんが生まれてから8カ月だけ送った、家族5人での生活だ。7歳の兄と5歳の姉とはこの3年間、数えるほどしか会えていない芳和ちゃん。「3人の子供は夫とそっくり。並んで寝ている姿を見たい」

2月8日は芳和ちゃんの4度目の誕生日。1歳になる前に入院生活に入ったため、自宅で誕生日を過ごしたことはまだ一度もない。今年も病室のベッドの上で迎えることになる。

誕生日が同じ敬子さんは毎年、自宅でケーキに2人分のろうそくを立てている。家族で一緒に誕生日を祝える、そんなささやかな日常が訪れることを願いながら。(鈴木俊輔)


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