集中豪雨による農業用ため池や排水施設の決壊で下流地域に洪水被害が出るのを防ぐため、所有者の同意なしでも改修工事ができるよう、政府が土地改良法を改正することが29日、分かった。開会中の通常国会に改正案を提出する。激甚化した豪雨でため池が決壊し周辺の住宅地に土石流が押し寄せるといった被害が増加しており、手続きの緩和で対策を加速する考えだ。
農業用ため池は農業用水の確保を目的に作られた人工池で、利用する農業者や団体が所有する。改修工事をするには原則的に費用負担を含めて所有者の承諾を得る必要があり、対策が難航する原因になっていた。
土地改良法改正案では、農業用ため池や用排水施設のうち、豪雨災害で周辺に二次災害が想定されるものに国や地方自治体が防災改修工事を実施する場合は手続きを緩和し、所有者の申請や同意、費用負担を必要としないようにする。
現在も地震対策の改修工事では同様の手続き緩和策がある。改修計画の策定から工事開始までの平均期間は、所有者の同意を得る必要があった時期の6・8カ月から、緩和策の導入後は2・4カ月まで短縮した。
近年は地球温暖化の影響もあり「数十年に一度」起こる規模の豪雨や、局地的に激しい雨を降らせる「ゲリラ豪雨」が増え、農林水産省によると直近10年間の農業用ため池の被害は8割が豪雨によるものだった。平成30年7月豪雨では西日本各地でため池が決壊し、死者が出るなど大きな被害があった。
政府は令和2年施行の特別措置法で、決壊すると周辺地域に人的な被害が及ぶ懸念がある農業用ため池を「防災重点農業用ため池」として指定し、対策を進めている。該当する5・5万カ所のうち、住宅被害などが想定される優先度の高いものだけで1万カ所ある。