新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン株」の感染は、南アフリカや欧米諸国での経験同様に、国内でもいったん市中感染が始まるとものすごい勢いで拡大している。
東京都では、10日現在で、新規陽性者の直近7日間移動平均は774.6人(対前週比1023.2%)であり、すでに感染者の75%以上がオミクロン株に罹患(りかん)したと推定される。各国での経験のように、日本全国でまもなく新型コロナ感染の大半がオミクロン株に置き換わるのだろう。
オミクロン株をめぐっては、その感染力の強さと同時に、重症化の傾向が低いことに注目されている。そのため経済活動を維持するためには、行動制限をできるだけしないように対策を採るべきだという意見が有力だ。
医療提供体制(病床や医療スタッフの確保など)をにらみながら、感染者数だけではなく、重症者・死亡者などの各指標を細かくチェックし、オミクロン株の社会的影響を冷静に判断することが、政府には強く求められる。しかも感染拡大に負けないほどに迅速に、である。
日本ではワクチンの3回目の追加接種(ブースター接種)が、欧米に比べるとほとんど進展していないことにも注意すべきだろう。日本のブースター接種率は0.7%(87万3410回、11日時点)に過ぎない。厚生労働省はブースター接種を開始した昨年12月の1カ月間で、2回目の接種から8カ月以上経った医療従事者など104万人の接種を完了させると目標を掲げていた。残念ながら、かつての河野太郎ワクチン担当相に比べると、現在の大臣の能力と熱意ははるかに劣るようだ。ちなみに米国では直近で22.8%、フランスでは36.7%となっている。
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は、高齢者へのブースター接種を最優先にすべきだと警告している。その背景には、日本の追加接種の遅れと、オミクロン株の感染力の強さに対する危機感がある。
不確実性が高く、オミクロン株の影響を断言することは難しい。米国では感染者数の絶対数が大きく、そのため重症化率は低くても重症者数が多い。最新の統計では、入院患者数は12万3千人、集中治療室(ICU)利用者は2万1千人で、昨年のピーク時とさほど変わらない。しかも増加スピードが速いために、入院する人と退院する人のバランスが失われ、病床が埋まりやすい。医療の圧迫が各地で起き、人員確保が難しく公共交通や教育などにも影響が出ている。
他方で、コロナとの共存を強く打ち出し、行動制限が比較的緩いスウェーデンでは、やはり新規感染者数は激増しているが、米国に比べると格段に重症者数も低レベルのまま推移し、医療や社会システムへの圧迫は深刻ではない。
政府にはできるだけ経済との両立を目指してほしい。例えば、新型コロナの感染症法上の扱いを2類相当から5類相当にするべきかどうかもポイントだろう。以前から指摘されてきた問題だが、本格的に論点化したのは、年初の安倍晋三元首相の発言からだ。ぜひ分科会などで積極的に議論すべきだ。安倍元首相の発言は、医療崩壊を回避し、経済・社会の停滞をこれ以上招かないとする趣旨に違いない。