しかもこのところは、生活に身近な品物の値上がりが相次ぐ。昨年11月の消費者物価指数を1年前と比較すると、マグロは14%、輸入牛肉は11%増加。また灯油は36%、ガソリンは27%上昇している。背景には不漁や新型コロナウイルスワクチン普及後の経済活動の底打ち、原油高などさまざまな事情があり、短期的な傾向で終わる可能性もあるが、過去10年の動向をみれば長期的に影響が積み重なっていく恐れも拭えない。
大幅な賃金底上げは期待薄
一方、物価上昇は経済活動の強まりというプラス要因の反映でもあり、無下に否定することはできない。また、企業が値上げを避けようとコストを価格に転嫁することをためらえば、収益力が落ちて従業員への賃上げもできなくなる。このため日銀の黒田東彦総裁は先月17日の記者会見で「賃金、物価が両方上がっていく中で、2%の物価安定目標が実現されることが非常に好ましい」と述べた。
ただ、近年の春闘では物価上昇にあわせて賃金を底上げする意味合いがあるベースアップ(ベア)を回避する動きが強まっている。激しい国際環境の変化にさらされる経営側が人件費の固定化を恐れていることに加え、労働組合側も雇用維持を優先して積極的に賃上げを求めてこなかったことが理由だとされる。
第一生命経済研究所の新家義貴・主席エコノミストは「物価が上がったからベアで生計費を補填(ほてん)するという賃上げは昔の話」と指摘する。今年の春闘については1.98%の賃上げを予測し、昨年の1.86%から高まると見込んでいるが、「賃上げはあくまで業績を反映する形で行われる。経営側は大盤振る舞いできるわけではない」とも分析。このところの物価上昇が個人消費回復の頭を押さえる可能性に注意を促している。