北川信行の蹴球ノート

「WE」は活況女子ゴルフ界に続けるか INAC安本社長「興行も大事」

産経ニュース
インタビューに応じるINAC神戸の安本卓史社長=INAC神戸のクラブハウス
インタビューに応じるINAC神戸の安本卓史社長=INAC神戸のクラブハウス

2022年が始まった。新型コロナウイルス禍で大きなダメージを被った国内外のスポーツ界にとっては、日常を取り戻し、再び飛躍するための変革の一年となる気がする。閉塞(へいそく)感に包まれた現状を打開する新機軸を打ち出したリーグや競技団体は人気を高め、旧来の手法に固執したり、時代の波に乗り遅れた組織は衰退するのではないか。

岐路に立たされているリーグの一つが、昨年9月に開幕したサッカー女子プロのWEリーグだろう。2021年末時点で、リーグ全体の1試合平均の観客数は1696人。目標に掲げる5千人の約3分の1にすぎない。2千人に届いているのも、INAC神戸(2656人)▽三菱重工浦和(2565人)▽大宮(2333人)の3チームしかなく、厳しい現実を突きつけられている。どうすれば打破できるのか。INAC神戸の安本卓史社長が思い描くのは、次々と有望な若手選手が生まれて活況を呈している女子ゴルフ界のような姿。「リーグ全体で興行という部分にもっと力を入れる必要がある」と力説する安本社長に、WEリーグの盛り上げ策を聞いた。

開幕戦の空気、持続できなかったところに課題

--WEリーグの現状をどう捉えている

安本「INAC神戸自体は首位の負けなしで、遠目から見ると順調。予想以上というか、順調に試合を消化できている。新型コロナの影響で(12月上旬に予定されていた)第11節が延期となった。そこも含め、WEリーグ全体に対しては、ちょっと満足感は低いかなと思う」

--低いというのは、どういうことか

安本「集客とかプロモーションとか…。興行としてというか。従来のなでしこリーグとの違いは何かといえば、そこはプロということ。プロの興行としては、満足度は低いかなと思う」

--集客、観客動員は全体的に苦しんでいる

安本「女子サッカーの魅力を、ウチも含めて伝えきれていない。それをコロナのせいには、したくない。コロナのせいにするのは楽だが、それでも試合を見てみたいという魅力をあまり発信できていないのではないか。INAC神戸としては、チームは調子がいいのに、そこはもう少し努力をしなければならないというのが、正直なところ」

--ただ、午前10時のキックオフをはじめ、いろいろな仕掛けを施した開幕戦の観客数は最多の4123人を記録した

安本「開幕戦は身を削って行った。新しいことが始まるという意味では、とても良かったと思っている。スタッフにとっても、選手にとっても、チームにとっても、あの開幕はいつもと違う空気、新しいことが始まるという雰囲気をつくり出せたと思う。それが、その後はなかなか持続させられなかったところに、INAC神戸だけではなく、日本の女子サッカー全体としての課題があるのかなと思っている」

--簡単に解決できる課題ではないと思うが、処方箋はあるか

安本「やはり情報発信というか…。INAC神戸を知ってもらおうというのは、すごく取り組んでいるのだが、そこからスタジアムに来てもらうところまで、どれだけアプローチできているか。ただ、INAC神戸単体でみると、ホーム試合の4戦目、5戦目あたりは、新規のお客さんが相当多かった。6割ぐらいが新規のお客さんだった」

--そこから見えてくるのは

安本「これまでのファンにとって物足りないものがあるのだろうか。新しいお客さんは来ているのに…というのもあり、答えがまだ出ていないのが正直なところ」

--リピーターを増やすために大切なのは何だと思うか

安本「女子サッカーのお客さんはチームというより、選手を応援する傾向が強いように思う。競技としては首位、無敗というのは成功している証拠だと思う。あとは人気をどう高めるか。競技と人気の両方を得たい思いで取り組んではいる。WEリーグの中では、平均観客数は1位だし、SNSのフォロワー数も1位。そこからみると、僕が高いものを求めすぎているのかもしれない。ただ、現状では勝っているのに、満足さをそんなに感じられない」

今は馬なり、どこかで鞭(むち)を

--リーグが掲げる1試合平均の観客数の目標(5千人)は高すぎるのでは

安本「今季はリーグ全体で110試合ある。110試合目に平均5千人に達することができれば、成功だろう。そのためにはおそらく、ウチだと今後は1試合あたり1万人入れないと到底、届かない。それでは届かせるために、何を売りにすればいいのかと言えば、競技の側面と人気選手の側面と両方が必要だと思う。そこは、もっとリーグにも期待したい。今はまだ馬なりで走っている状態。どこかで鞭を入れないと、伸びないだろうなと思う」

--サッカー界全体での取り組みはどうか

安本「Jリーグを見習わないといけないのは、Jリーグという興行を28年続けてきたこと。理念はずっと後世まで残るもので、後からついてくるものだと思う。根付いているJリーグの百年構想やホームタウンもそう。それに対し、WEリーグは理念を先に出しすぎている感がする。理念を出しすぎるあまり、競技の魅力が伝えきれていないかなと思う。あと、女子日本代表『なでしこジャパン』の成績に左右されたくないというのが、WEリーグの加盟クラブの正直な思い。もちろん選手たちは頑張っているが、なでしこジャパンありきのプロモーションをすると、なでしこジャパンがこけると、WEリーグも人気が出ないことになる。危機感を持っているのは、この時期、バスケットボールやカーリングなどがすごくメディア露出しているのに、その中に女子サッカーが全然入っていないこと。なぜかなと考えれば、サッカー自体の常識が邪魔をしている部分もあるのではないかと思う。例えば、試合後のインタビュー。選手も監督も、みんなが『切り替えて次やります』のようなボキャブラリーの少ないコメントをしていてはダメだろう」

--それは、個性を出せということか

安本「なぜインタビューがあるのかというと、それは自身の思いを多くの人に伝えるため。テレビ中継で、監督も選手も同じせりふを繰り返していると、チャンネルを変えてしまう。そこは一人一人が考えていかないといけない。さらに、せっかく放送してくれる試合に対して、WEリーグがほとんど関わっていないのも問題。興行だということを胸に刻むべきだと思う」

--他競技と比較してみえてくるものとは

安本「バスケットボールの競技人口は、もともとサッカーよりも多い。試合会場も屋内のアリーナだから、寒さも関係ない。演出もやりやすく、お客さんの一体感も生まれやすい。サッカーは少しマニアックになりすぎている部分があるのかもしれない」

--どう打破していく

安本「たとえばサッカーくじの『toto』と組んで、スタジアムの観客動員につなげるとか。新しい発想とか、常識を打ち破るところに今、取り組んでいる。延期となった第11節の対戦相手の広島と一緒にどんなことができるか、考えたりもしている」

--どんな新機軸を打ち出すかが大切

安本「サッカー単体だけで勝負した(観客動員の)数字が今の実績。試合会場にキッチンカーを増やしたり、スイーツの店を出したりすればいいとの意見もあるが、まずはお客さんを増やさないと、そういった出店の数を増やすことは難しい気がする。ニッチな産業になってしまっている。メジャーになるには、ライトな観客も含め、スタジアムに来てもらえる仕掛けをしたい。今までにやっていないことに取り組まないと、お客さんは来ないのではないかと思っている」

--開幕戦の午前10時キックオフをリーグ全体が手本にするのもありではないか

安本「確かに、サンデーWEリーグとかはありだと思う。あとは、WEリーグという名前はまだ浸透していないように思う。個人的な見解だが『なでしこプレミアリーグ』にするのはどうか。勇気がいることだが、勇気を持ってマイナーチェンジしていくことも、ありではないだろうか」

--リーグとして、課題が山積しているように見える。ただ、開幕1年目から結果を出すのは難しいようにも思える

安本「やはり初年度から力を入れないといけない。多少は無理をしてでも、観客を入れるようにしないと続かないと思う。INAC神戸でいえば、入場料収入を主体としてクラブの運営が賄えるようになるのには、たぶん10年ぐらいはかかる。今は全体の数%にすぎない。スポンサー収入が90%ぐらい。スポンサーのおかげで試合もチームも運営できている。子供の招待もできている。この3年、子供を無料で招待してきた。今、子供の観客がめちゃくちゃ増えている。スタンドの景色が変わってきている。着手して良かったと思っている。誰でもいいという単なるばらまきじゃなく、スポンサーフィーをいただいた中から、子供たちに絞って無料招待している。それが徐々に功を奏してきた。子供が来たいから、親も一緒に来るようになって…」

--今後はどんなことが必要か

安本「ニワトリが先か卵が先かは分からないが、競技と人気のどちらもしないといけない。選手もたくさんのお客さんに見てもらいたいと思っている。選手がお客さんを呼べるところまでもっていきたい。あの選手だから見たい、このチームだから見たいという形にしたい。今はどちらかというと、神戸のチームだから応援しようという形だと思う。そうなるには、もう少し、チームも選手も露出していかなきゃいけない。選手もちょっとは演じてほしい」

次々と選手の名前が出てくる女子サッカー界に

--一挙手一投足、立ち居振る舞いにこだわるプロ意識を持ってほしいということか

安本「たとえば、女子ゴルフの選手の名前はすらすらと出てくる。渋野日向子らと比べると、女子サッカーの選手は名前が出てこない。『かわいいけど誰だろう』じゃなく、『この人は女子サッカーの…』と言われるところまでしていくには、選手も今がベストではないと思う。もっと前面に出てこないと。ヒントはヴィッセル神戸に所属していた(元ドイツ代表の)ポドルスキとか、今もチームを引っ張る(元スペイン代表の)イニエスタとか。そういった知名度のある選手が加わり、ホーム試合だけでなく、各地を満員にしていった。人気選手をつくろうとリーグに提案している。人気チームが客を連れていく形にしたい」

--日本の女子ゴルフ界は活況を呈している

安本「若い子がどんどん出てくると盛り上がる。古江彩佳がいて稲見萌寧がいて、渋野日向子がいて…。女子サッカーの選手はここまで名前が出てこない。こういうメディア戦略をすべきだと思う。アイデアをもっともっと出していかないといけない。(WEリーグのシーズンの)どこで鞭を入れるか。レースの終盤をどう盛り上げていくのかを、(ウインターブレーク中の)今のうちに考えていかないといけない。業界全体で考えるべきだろう。競技も大事だが、興行も大事だと思う」

>星川監督が描くWEリーグの将来像


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