レシピの変化が物語る「令和の家庭料理」のいま

産経ニュース
「手順を短縮したからって、愛情は減らない」と話す阿古真理さん
「手順を短縮したからって、愛情は減らない」と話す阿古真理さん

レンジで「チン」したオートミールを「ごはん」代わりにしてみたり、ホットプレート一枚で主食もおかずも作ったり。コロナ禍の家庭料理を振り返ると、手軽で、楽しく、健康的にと、さまざまな観点から新しい調理法が広がった。生活史研究家の阿古真理さんは、令和とコロナ禍の時代にやっと、レシピが「人々のライフスタイルの変化に追いついてきた」と話す。それはどんな変化なのか。(津川綾子)

立役者はSNS

阿古さんによると、料理のレシピは「長らく、主婦である女性を作り手の前提に、『家族のために』がスタンダードだった」という。

夫婦に子供2人といういわゆる「標準世帯」の数よりも、今や一人暮らしのほうが多い。それでも発信されるレシピの側は「家族のために」が主流だった。

しかし最近、ようやく「コンロが一口しかなく、狭い一人暮らしのキッチン事情に応じたレシピも目立つようになってきた」と話す。

阿古さんは昭和から令和に出版された約150冊のレシピ本を精読、そこから令和とコロナ禍の家庭料理に起こった変化を分析し、著書「人気レシピ本が教えてくれたラクしておいしい令和のごはん革命」(主婦の友社)にまとめた。

令和に起こった変化について、阿古さんは「作り手の多様化」と「レシピの庶民化」の2つのキーワードを挙げた。

多様な作り手を前提としたレシピは、「ラクしておいしい」が肝となる。ヒットレシピを生み出したのは、SNSで発信する新世代の料理家たちだった。あらかじめ数種類の調味料を混ぜ合わせてある「合わせ調味料」を使ったレシピが多く、誰が作っても分かりやすいおいしさに仕上がりやすい。また、切った具材はボウルなどに入れずに、直接、フライパンに入れて混ぜるなど、時短と手間の効率化にもたけていた。

「今や、誰でも検索をかければ無料で作り方が見られる時代。料理の心得のある人ならば、わざわざ見なくてもいいようなちょっとした炒め物の作り方までレシピになっている。だから料理の基礎がなくても誰でも作れる。おまけに文字を読むのが面倒なら、動画で見ればいいわけです」(阿古さん)。

平易な用語使い

併せて、それまで不文律のように使われてきた料理用語も、誰にでも伝わるようにと説明を加える工夫も進んだようだ。

「最近は、レシピ本に『ひとつまみはこれくらい』と図示したものまであります。調理の手順についても、ロジカル(論理的)な説明が増えました」

例えばハンバーグを作るとき、肉を練るのはアクチンとミオシンと呼ばれるタンパク質を結合させ、肉汁を閉じ込めるようにするため-といった、論理的な説明を好むのは男性に多いと話す。加えて、「在宅勤務が広がり、外食の自粛も迫られたことから、コロナ禍では料理をする男性が増えました」。

分かりやすく、手間も少なく工夫が進んだレシピは、台所の担い手の裾野を広げた。「とはいえ、こうした流れはまだ始まったばかり」と阿古さん。レシピと台所のバリアフリー化は今後さらに進むとみている。