安定的な皇位継承策などを議論する有識者会議が取りまとめた最終報告書の要旨は次の通り。
皇位継承については、現在、皇位継承資格者として、秋篠宮さま、悠仁さまおよび常陸宮さまの3方がおられる。会議ではヒアリングを通じて、これまでの皇位継承の歴史や伝統の重みについて改めて認識を深めることができた。このような皇位継承の流れの中で、将来において、皇位が悠仁さまに受け継がれていくことになる。
ヒアリングの中では、皇位継承のルールについて悠仁さままでは変えるべきでないとの意見がほとんどを占め、現時点において直ちに変更すべきとの意見は1つのみだった。
皇位の継承という国家の基本に関わる事柄については、制度的な安定性が極めて重要だ。また、今に至る皇位継承の歴史を振り返るとき、次世代の皇位継承者がおられる中でその仕組みに大きな変更を加えることには、十分慎重でなければならない。現行制度の下で歩まれてきたそれぞれの皇族方のこれまでの人生も重く受け止めなければならない。
会議としては天皇陛下、秋篠宮さま、次世代の皇位継承資格者として悠仁さまがおられることを前提にこの皇位継承の流れをゆるがせにしてはならないということで一致した。
悠仁さまの次代以降の皇位の継承について具体的に議論するには現状は機が熟しておらず、かえって皇位継承を不安定化させるとも考えられる。
以上を踏まえると、悠仁さまの次代以降の皇位の継承については、将来において悠仁さまのご年齢やご結婚等をめぐる状況を踏まえた上で議論を深めていくべきではないかと考える。
一方、現在、悠仁さま以外の未婚の皇族が全員女性であることを踏まえると、悠仁さまが皇位を継承されたときには、現行制度の下では、悠仁さまの他には皇族がおられなくなることが考えられる。会議においては、このような事態はどうしても避けなければならないということで意見の一致を見た。そのためには、まずは、皇位継承の問題と切り離して、皇族数の確保を図ることが喫緊の課題だ。これについては、さまざまな方策を今のうちに考えておかなければならない。
以下、この「皇族数の確保」について、会議として議論したことを示す。
皇族の役割として制度的に定められているもののうち、最も多く活用されているのは、国事行為の臨時代行だ。国際親善のため天皇が外国を訪問することは数多く行われており、昭和天皇は2回、上皇さまはご在位中20回にもわたり外国訪問を行われた。これらの天皇の不在時に憲法に定められた国事行為を行うのが臨時代行であり、この国事行為の臨時代行を担う皇族がおられなければ外国訪問をはじめさまざまな天皇の活動に制約が生じるおそれがある。
では、皇族数を確保する具体的な方策としてどのようなものがあるのか。ヒアリングにおいてさまざまな考え方をお聞きし、議論を重ねていく中で、会議としては、以下の3つがその方策としてあるのではないかと考えるに至った。
①内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することとすること
悠仁さまの世代に悠仁さま以外の皇族がおられなくなるおそれがあるのは現行制度が女性皇族は婚姻により皇族の身分を離れることとなっていることに1つの原因があるものと考える。
そこで、この制度を改めて、内親王・女王は婚姻後も皇族の身分を保持することとし、婚姻後も皇族としてさまざまな活動を行っていただくというのがこの考え方だ。
これは、明治時代に旧皇室典範が定められるまでは、女性皇族は皇族でな い者と婚姻しても身分は皇族のままであったという皇室の歴史とも整合的なものと考えられる。和宮として歴史上も有名な親子(ちかこ)内親王は、徳川第14代将軍家茂との婚姻後も皇族のままであり、家茂が皇族となることもなかった。
また、女性皇族に婚姻後も皇族の身分を保持していただくことは女性皇族が現在行っておられるさまざまな公的活動が継続的に行われていくことにつながり、担われるご公務の発展が期待されるとともに、関わっておられる行事や団体などの継続的発展の観点からも望ましいのではないか。
ただし、この方策に反対する考え方もある。その代表的なものは、女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持することが皇位継承資格を女系に拡大することにつながるのではないか、というものだ。これは、女性皇族の婚姻後生まれてくる子(女性皇族の配偶者が皇統に属する男系の男子でない限り、父方で天皇と血統がつながらないので女系の子となる)にもしも将来皇位継承を認めることとなれば、それは女系継承になってしまうという考えだ。
この点については、女性皇族が皇族でない男性と婚姻しても皇族の身分を保持するという新しい制度を導入した場合、その子は皇位継承資格を持たないとすることが考えられる。また、配偶者と子は皇族という特別の身分を有せず、一般国民としての権利・義務を保持し続けるものとすることが考えられる。
以上のような新しい制度とする場合でも、現在の内親王・女王殿下方は、天皇および皇族以外の者と婚姻したときには皇族の身分を離れる制度の下で人生を過ごされてきたことに十分留意する必要がある。
②皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とすること
養子は皇族では皇室典範第9条により認められていないが、一般の国民には、民法に基づき広く活用されている制度だ。
実際の養子の目的はさまざまであり、十分な監護が得られるよう未成年の子のために行われる養子縁組もあるが、例えば家名・家業を継がせるという目的で、養子となるのにふさわしい人を当事者間の合意により養子とすることも行われている。
皇族数が減少する中で、皇族が養子を迎えることを可能とし、養子となった方が皇族となり、皇族の役割、皇室の活動を担っていただくということはとり得る方策であるものと考える。その場合、皇族が男系による継承を積み重ねてきたことを踏まえると、養子となり皇族となる者も、皇統に属する男系の男子に該当する者に限ることが適切であると考える。
現行の制度では、婚姻により女性が皇族となることおよび皇族の夫婦から子が生まれること以外に皇族数が増加することはない。未婚の男性皇族が悠仁さま以外おられない現状において、皇族が養子を迎えることを可能とすることは、少子化など婚姻や出生を取り巻く環境が厳しくなる中で、皇室を存続させていくため、直系の子、特に男子を得なければならないというプレッシャーを緩和することにもつながると考える。
この方策については、昭和22年10月に皇籍を離脱したいわゆる旧11宮家の皇族男子の子孫である男系の男子の方々に養子に入っていただくことも考えられる。これらの皇籍を離脱した旧11宮家の皇族男子は、日本国憲法および現行の皇室典範の下で、皇位継承資格を有していた方々であり、その子孫の方々に養子として皇族となっていただくことも考えられるのではないか。皇籍を離脱して以来、長年一般国民として過ごしてきた方々であり、また、現在の皇室との男系の血縁が遠いことから、国民の理解と支持を得るのは難しいという意見もある。しかしながら、養子となった後、現在の皇室の方々とともにさまざまな活動を担い、役割を果たしていかれることによって、皇族となられたことについての国民の理解と共感が徐々に形成されていくことも期待される。
また、皇位継承に関しては、養子となって皇族となられた方は皇位継承資格を持たないこととすることが考えられる。
なお、養子となる方が婚姻しており、すでに子がいる場合においては、民法同様、子については養親との親族関係が生じないこととし、皇族とならないことも考えられる。
③皇統に属する男系の男子を法律により直接皇族とすること
この方策は皇族というわが国において特別な立場について、養子のような一般国民に広く受け入れられている家族制度とは異なるアプローチで、新たなメンバーを迎えようとするものであるといえる。
①・②の方策と異なり、現皇族のご意思は必要としない制度であるという面もある。他方、皇統に属するとはいえ現在一般国民である方が、現在皇室におられる皇族方と何ら家族関係を有しないまま皇族となることは国民の理解と支持の観点からは②の方策に比べ、より困難な面があるのではないかとの指摘もある。
以上の①から③についての考察を踏まえると、皇位継承資格の問題とは切り離して、喫緊の課題と考えられる皇族数の確保を図る観点から、
①内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することとすること
②皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とすること
という2つの方策について今後、具体的な制度の検討を進めていくべきではないかと考える。
③皇統に属する男系の男子を法律により直接皇族とすることについては、①および②の方策では十分な皇族数を確保することができない場合に検討する事柄と考えるべきではないか。
いずれにせよ一定の皇族数を確保することは必須の課題であり、そのためには多様な方策が存在することが重要であるとの観点に立って検討を進めていくべきではないかと考える。
以上の方策のほかに、現在の制度における皇族の範囲の変更は行わず、婚姻により皇族の身分を離れた元女性皇族に、了解をとった上で、さまざまな皇室の活動を支援してもらうということも考えられる。現に、皇族の身分を離れた後も皇室にゆかりの深い役割を続けている元女性皇族もいる。しかしながら、摂政や国事行為の臨時代行や皇室会議の議員という法制度上の役割は、「元皇族」では果たすことはできない。現在の皇室の活動等の担い手を確保していくための1つの方策だが、やはり皇族数の確保のためには、①から③のような方策が必要とされるものと考えられる。