武内涼さん「厳島 ITSUKUSHIMA」 1月9日から新連載小説 武将たちの熱きドラマ

「妖草師」シリーズや「駒姫―三条河原異聞―」などの著書がある歴史・時代小説界の新鋭、武内涼さん(43)による新連載小説「厳島 ITSUKUSHIMA」が、1月9日から始まります。西の戦国大名の雄となる武将・毛利元就(もうりもとなり)が、数倍もの兵力を持つ陶晴賢(すえはるかた)の大軍を安芸(あき、広島県)の厳島(いつくしま)で破った天文24(1555)年の厳島の戦いを舞台にした歴史小説です。武内さんにとっては初めての新聞連載小説で、毎日掲載されます。産経ニュースでも同時スタートとなります。

厳島の戦いは、日本三大奇襲戦の一つに数えられることもあります。兵力に劣る元就は、おとり城の建設や偽情報の拡散などの謀略を駆使して狭い島に陶の大軍をおびき寄せ、奇襲を成功させます。小説には、敗れた陶晴賢の家来の中で元就の謀計を正確に見抜き、注意を促した名将、弘中隆兼(たかかね)がもう一人の主役として登場します。巧みな知略で勝利した元就と、義を貫いて敗れた隆兼。対照的な2人の目から戦国の人間ドラマが描かれます。

来年1月からスタートする武内さんの連載小説にご期待ください。

「戦国時代のことをあまり知らない人でも楽しめる作品にしたい」と語る武内涼さん(鴨志田拓海撮影)
「戦国時代のことをあまり知らない人でも楽しめる作品にしたい」と語る武内涼さん(鴨志田拓海撮影)

武内涼さんの話 「新聞連載という多くの読者の方々の目に触れる場で小説を書ける喜びを感じています。冷徹な知略を持つ元就の姿からも、義を貫き通した隆兼の生き方からも現代人が学べることは多い。歴史が苦手な方も楽しめるような小説にしたい」

 >連載小説「厳島」特集ページ


新連載小説「厳島 ITSUKUSHIMA」の舞台は、戦国史上でも重要な戦(いくさ)といわれる厳島の戦いだ。老練な知略を駆使してこの戦に勝利を収め、中国地方制覇の土台を固めた知将・毛利元就と、元就の謀計を見抜きながらも、義を貫いて敗れていく良将・弘中隆兼―。立場も信念も異なる2人の視点から濃密な人間ドラマが織り上げられる。

温めた構想

「圧倒的な兵力差を覆した毛利元就の知謀。敗れた陶晴賢の家臣で、知勇を兼ね備えた弘中隆兼の生き方。自然に囲まれた厳島という土地の魅力…。厳島の戦いにはひかれる要素がいくつもある。ずっと書きたかった題材です」と武内さんは明かす。

「ただ、元就の生涯を描いた小説はすでにたくさんある。だったら、この戦そのものを、元就と隆兼という2人の視点から描いたら物語の深みが増して面白いんじゃないかと」

ときは16世紀半ば、戦国の世。主君の大内義隆に反旗を翻して防長(山口県)などを制した勇将・陶晴賢と、安芸などを支配する毛利元就との間で対立が先鋭化する。数倍もの兵力を有する陶を打倒するために、元就が練り上げたのは周到な奇襲作戦。厳島(宮島)におとりの城を築き、そこを重要な拠点と考えている―との偽情報を忍びの者を使って陶側にばらまいたのだ。かくして天文24年、狭い厳島に陶の大軍をおびき寄せた元就は、風雨をついて海側と山側から攻め込む。陶軍は大混乱に陥り晴賢も自刃に追い込まれる。圧倒的な兵力差をはね返す毛利軍の大勝だった。

敗者の悲哀と誇り

小説ではこの厳島の戦いをハイライトに、勝者である元就の知略とともに敗れた陶方で戦った隆兼の姿を丁寧に描く。隆兼は元就の謀計をいち早く見抜いて注意を喚起する。だが主戦論をくつがえすことはできない。結局、死を覚悟して決戦の場である厳島に向かった隆兼は劣勢の中で晴賢を守り続け、投降の呼びかけも拒否した末に壮絶な最期を迎える。

武内さんは、決戦の直前に隆兼が妻に宛てた書状も取り上げながら、義を尊び、滅んだ武士の内面を凝視する。今年刊行された『源氏の白旗 落人たちの戦』をはじめ、敗者の悲哀と誇りを描いてきた作家の真骨頂でもある。

「権力者よりは民衆、戦に勝った人間より負けた人間を思い入れを込めて描きたい気持ちが強い。自分がゆずれない大切なものや誇りを守って敗れていった人間は、たとえ敗れても忘れ去られてしまうわけではない。歴史の中でずっと輝き続けると思うんです。そういう輝きをこの小説でも追っていきたい」

敬愛する作家

映像制作の仕事などを経て作家デビューを飾ってから10年。史実に基づく歴史物から時代物、妖怪が登場するファンタジー風の物語まで手がける作品の幅は広い。歴史小説を執筆する際に仰ぎ見るのは、敬愛する作家、司馬遼太郎さん(1923~96年)の壮大な小説世界だという。

「司馬さんの小説には歴史を広く見て、今起きていることだけでなく、その前後のこと、世界全体までをもとらえるような視点が入っている。それが好きなので、今回も司馬さんを意識しながら書くようになりそうです」と話す。

「過去の歴史には、今まで生きてきた人間たちの成功例や失敗例が詰まっている。いわば、僕たちが顔も知らない人たちの喜怒哀楽の集積です。だから時代は違っても現代の人たちの胸に響くものがきっとある。いろいろなことを吸収できる人物をたくさん出して、最後まで力を入れて書き切りたい」

たけうち・りょう 昭和53年、群馬県生まれ。早稲田大第一文学部卒業後、映画やテレビ番組の制作に携わる。平成23年、日本ホラー小説大賞最終候補となった原稿を改稿した『忍びの森』でデビュー。27年には『妖草師』シリーズで徳間文庫大賞受賞。同シリーズは「この時代小説がすごい! 2016年版」(文庫書き下ろし部門)の第1位に。ほかの著書に『駒姫―三条河原異聞―』などがある。

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