一般会計総額35・9兆円という過去最大の補正予算が20日成立したが、大盤振る舞いの高揚感はない。目玉だった18歳以下への10万円相当の給付は政策目的がおざなりになって二転三転し、経済対策が景気下支えに十分効果を発揮できるのか不安視されるからだ。年末年始に新型コロナウイルスの感染「第6波」が懸念される中、岸田文雄政権は〝朝令暮改〟の印象を覆す強い実行力が求められる。
補正予算が過去最大となったのは、政権の看板政策や衆院選での与党公約を選挙後3週間足らずの突貫工事で詰め込んだためだ。足元のコロナ対策と中長期的な成長戦略が混在したことでメリハリに欠け、政策の目的があいまいになった。
象徴的なのが18歳以下への10万円相当の給付。貯蓄に回らないよう5万円分は教育関連のクーポンで配る計画だったが、自治体の強い求めに押される形で最後は現金一括給付を認めた。
本来、コロナ禍の家計支援が目的なら対象を子育て世帯に絞るべきではなく、少子化対策が目的なら一度限りの給付ではなく毎年の子育て支援を積み増すべきだった。政策理念が不透明なまま中途半端な制度を作ったことで、批判を浴びて妥協を重ね、予備費を合わせて1・9兆円を用いながらアピールに乏しかった。
また、今回の経済対策は給付を中心に分配政策へ傾斜し、コロナ禍の消費抑制が生んだ過剰貯蓄を景気刺激に利用する発想に欠けていた。
日本銀行が20日発表した令和3年7~9月期の資金循環統計(速報)で、家計の金融資産残高は9月末時点で前年同月比5・7%増の1999兆円と比較可能な平成17年以降で過去最高を更新した。ただ、ため込まれたお金を消費につなげる施策は観光支援事業「Go To トラベル」の再開ぐらい。給付などの臨時収入は貯蓄に回りやすく家計資産を一層積み上げる。
一方、「最悪の事態」を想定するとした岸田政権の危機管理体制は今後、その真価が試される。国内の新型コロナ感染者数は落ち着いているが、新たな変異株「オミクロン株」は既に国内へ入っており、欧米のように感染が拡大傾向に入ってもおかしくない状況だ。
医療や病床の逼迫(ひっぱく)を防ぎながら経済活動を回し続けるには、政府の強い対応が欠かせない。菅義偉前政権からの課題であるコロナと経済の両立にどう答えを出すのか。首相の指導力が問われる局面になりそうだ。(田辺裕晶)