【香港=藤本欣也】中国の影響力が強まる香港で19日、立法会(議会=定数90)選の投票が行われる。今年、中国主導で選挙制度の見直しが強行されてから初の大型選挙。親中派が大勝するのは確実で、投票率がどこまで下がるのかが最大の焦点となっている。
「香港のため、自分のために投票を!」
クリスマスのイルミネーションで彩られる繁華街にあって、候補者の選挙ポスターより目立つのが、香港当局の啓発ポスターだ。
投票日の19日には、公共交通機関の運賃が原則無料になった。林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官は全ての公務員に投票を指示。また今回の選挙で初めて中国本土との境界にも投票所を設け、仕事などで本土に居住する市民も投票できる特例措置をとった。政府高官も競うように啓発活動を行っている。
親中派の重鎮で、中国政府主管のシンクタンク「全国香港マカオ研究会」の劉兆佳副会長は政府の対応について、「選挙を非常に重視していることをアピールするのが目的だ」と指摘、中国当局から低投票率の責任を問われないようにするためだとの見方を示す。
ただ、あまりにも投票率が低ければ、来年3月に行われる行政長官選の行方にも影響しかねない。再選を狙っているとも噂される林鄭氏にとっては正念場だ。
今年5月、中国式の選挙制度が香港に導入された結果、今回の立法会選に立候補するには、①親中派で構成される選挙委員会のメンバー10人以上の推薦を得る②資格審査委員会で「愛国者」と認定される-ことが必要となった。
これに対し、民主派最大政党の民主党が候補者擁立を断念すると、親中派しか出馬しない選挙になることを懸念した中国側は政治工作を展開。独立系の民主派や、親中派でもなければ民主派でもない中間派の政治家らを対象に出馬への働きかけを行った。最終的に、立候補を認められた153人の中に少なくとも13人の非親中派が含まれた。
前回2016年の立法会選では無投票当選が12議席あったが、今回はゼロ。間接投票の職能別選挙枠(30議席)には67人、直接選挙枠(20議席)には35人の立候補が認められた。
中国側によって「激戦」(中国系香港紙)が盛んに宣伝されるものの、街にその熱気はない。民間機関の調査によると、政府の投票呼びかけに対し34%が「投票意欲が下がった」、別の調査でも52%が選挙に「関心がない」と答えている。前回立法会選の投票率は58%だったが、今回は20%台を予測する識者もいる。
政治評論家の袁彌昌(えん・びしょう)氏は新たな選挙制度で行われる今回の立法会選の意義について、「(香港の制度が)西洋式ではなく、中国式民主に取って代わられることを意味する」とみている。