時代の変化とともに少しずつ“大人の要素”も
ただし、時代の変遷によって、少しずつ大人の要素を取り入れてきたのも事実。初代は兎にも角にも荒々しく、ラップタイムのためには全てが犠牲にされても許されたが、次第に瞬間的な速さではなく、柔軟な走り味が求められていく。新型に搭載されるのは、水平対向4気筒の2.4リッターエンジンだ。排気量が2リッターから400cc拡大されたのがエポック。慣れ親しんたコンパクト2リッター水平対向からの脱皮である。
興味深くもあり、このモデルの性格を端的に表しているのがこのスペック。排気量アップによってパワー増強を予想されるが、最高出力は300psから275psにダウン。最大トルクも400N・mから375N・mへと抑えられているのである。
狙いは明確だ。走りやすさである。ターボチャージャーを小径にすることで、低回転域のレスポンスが鋭くなった。コントロール性を高めるばかりか、市街地での乗りやすさを優先したのである。
ターボチャージャーが小型になったことで、高回転域の爆発力は抑えられた。最高出力と最大トルクが数値上、下がっているのはそれが理由だ。つまり、これまでのような「ドカン」と弾けるような特性は影を潜めた。一部のプロドライバーが操った時にだけ目の覚めるようなラップタイムを記録するのではなく、万人が運転しやすく、快適なワインディングドライブが可能になったのだ。
その象徴が、CVTトランスミッションである。スポーツ仕様とはやや異なる、ファミリーカーに採用されるミッションと組み合わされている。WRXもついにCVTなのか…。ガッカリと肩を落とす人もいるに違いない。
もっともそれとて、これまでの6速マニュアルミッション以上にスポーツである。CVTにありがちな鈍さはなく、電光石火の変速が可能だ。驚くほど軽快に、スポーツドライビングが楽しめるようになって生まれ変わったのである。
“激辛”一辺倒で覇を競ったWRXが、新しい扉を開いた。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。