勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(356)

忘れ得ぬ日 阪急ファン、今も残る思い

産経ニュース
阪急ファンの3人。思い思いの宝物を持ってきていただいた=7月17日
阪急ファンの3人。思い思いの宝物を持ってきていただいた=7月17日


■勇者の物語(355)

突然の球団売却―。ショックと「なぜ?」という思いを阪急ファンは今も持ち続けている。この連載でもお世話になった3人の阪急ファン(みな60歳前後)に話を聞いた。希望で匿名になることをお許し願いたい。

H氏が箕面市桜井で経営する喫茶店「廣屋珈琲店」でU氏、S氏と会った。何か思い出の品を―というと、3人とも懐かしい阪急の〝縦じま〟のユニホームを持参した。

「ボクのは西本さんの生誕100年のときに買ったものです」とS氏。U氏は「子供の頃、長池さんのファンで背番号3に憧れました」。そしてH店長は「ボクのは背番号は付いてませんが、山田さんと福本さんの直筆サイン入りです」。自慢の宝物にみな目が輝いている。

昭和63年10月19日(水曜日)、U氏は勤めていた会社が休みの日だった。NHKのラジオで「ロッテ―近鉄戦」の中継を聴いていた。一回が終わったときだ。突然、放送がスタジオに切りかわり、阪急の球団売却―のニュースが流れた。

「アナウンサーの声に体が震え、耳を疑いました」

U氏はすぐ阪急ファンの友人たちに電話を掛けた。「水曜日だし、みんな仕事中で知らない。早く知らせてやろうと…」。夕方の5時から緊急会見があるという。そして電気屋さんに走った。

「きょうという日は阪急ファンにとって〝忘れ得ぬ日〟になる。会見や特番を全部記録しなきゃいけない―と思ってビデオテープを5本買いに行きました」。テープは平成7年の阪神淡路大震災で自宅が全壊。数本を失ったという。

「当時は創業家から小林公平さんがオーナーになられたのに〝どうして〟と思っていたんですが、いま、考えてみれば、創業家のオーナーだからブレーブスを売る決断ができたんですよね。重い決断だったと思います」とU氏。

譲渡会見のとき報道陣から「球団を売るのはファンへの裏切りじゃないですか?」と質問された小林オーナーは「そう言われるのが一番つらいんです」と目を伏せた。

「小林オーナーの奥さま(喜美夫人)は〝皆さまに申し訳ない〟と1カ月ほど自宅から出られなかったそうですよ」

H店長はコーヒーをいれながら、とっておきのエピソードを教えてくれた。

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