野球がぜんぶ教えてくれた 田尾安志

交渉は腹を割って話し合う

産経ニュース
今オフの動向が注目される阪神の梅野隆太郎捕手(水島啓輔撮影)
今オフの動向が注目される阪神の梅野隆太郎捕手(水島啓輔撮影)

プロ野球では1軍登録日数が規定の条件を満たした選手が他球団と交渉できるフリーエージェント(FA)の制度ができて久しい。1993年の制度導入以降、多くの選手が移籍を決断してきた。

今オフの有資格者で僕が気になっているのは、阪神で2014年からプレーしてきた梅野隆太郎捕手。過去ゴールデングラブ賞を3回受賞し、今夏は東京五輪にも出場するなど球界を代表する捕手に成長した。どの球団も捕手は手薄なだけに、FA宣言すれば間違いなく獲得の手が挙がるだろう。

ただ、矢野燿大監督は梅野に対して、案外冷たかった。今季の終盤の戦いでは先発で起用する機会が激減し、十分に良さを引き出せていなかった。日本のプロ野球では、チーム編成も現場を預かる監督の意向をくむ傾向が強いとはいえ、仮に別の監督が指揮をとることになった際には梅野はチームにいてほしい選手であるはずだ。球団が引き留めにどれだけ誠意を尽くすのか。今後、数年間のチームの浮沈を左右するだけに、去就の行方は興味深い。

出ていかれては困る選手には年俸を大きく引き上げて提示するのはどの球団も同じ。だが、人の心を動かすのは金額のやりとりだけではない。どうしても必要な人材だと熱意を伝え、選手に「この球団に残りたい」と思わせることができるかが交渉の肝だ。

僕が中日の選手だった頃、契約更改の交渉の席上、球団幹部の口をついて出るのは成績のあら探しばかりだった。「盗塁がゼロだったね」「四球が少なかった」「本塁打が少ない」…。年俸を抑える理由付けをしたい魂胆が見え見えだった。

指摘されるたびに、次の年は成績を上げようと気持ちが燃えたが、もっと気分良く翌年に向かいたかった。「今年はよくやってくれた。でも予算が決まっていて、どうしてもこれだけしか出せない。今回はこらえてくれないか」。腹を割ってそう伝えられたなら、選手の気持ちも違う。

FA制度が導入されてから球団と選手の関係もドライになり、1つの球団に骨をうずめるような「チーム愛」を持ちにくい時代になった。だが、交渉にあたる球団フロントの力量が問われるのは今も昔も変わらない。(野球評論家)

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