訪れた水族館でモンハナシャコの行動に衝撃…。今回はその飼育について。
自宅での飼育を夢見た私は、書籍数冊とネットで1週間調べた結果、「飼育は困難」と泣く泣く諦めた。
ところが、わが家には生物のプロがいたのだ。大学で専門知識を蓄えた夫は、ただの生物好きの私とはレベルが違う(本職は人間の医学です)。
数カ月かけて必要な環境と注意事項を隅々まで調べ上げ、専門の研究者にコンタクトをとって市販されていない資料も手に入れた。そしてコントロールの難しい海水の準備を念入りに1カ月。はるばる沖縄の漁師さんから、ついにモンハナシャコが到着した。
水質と水温をなじませ、わが家の水槽にモンハナシャコが降り立った。鮮やかな赤、青、黄のそろった体色。エビやカニよりも圧倒的に複雑な体のつくり。自宅で見ると、さらに神々しく見える生き物であった。
しばらくは岩場に隠れるだろうという予想に反し、水質のパイロットフィッシュ兼非常用食料として先住させていた熱帯魚に突進。例のハンマー状パンチ一撃で見事仕留め、3対の顎脚(がっきゃく)でしっかとつかみ、食事を開始した(後ほどいろいろなエサを試して分かるのだが、魚の捕食はまれ。長旅後で相当おなかがすいていたのだと思う)。
一番驚いたのは食後の掃除風景だ。ゆるくカーブした細い関節の先に丸いブラシが付いた脚があり、大変器用に体中を掃除する。頭や超高性能と評される複眼から、尻尾、背中まで…。高速で小刻みに、シャカシャカと全身くまなく磨く(この特殊なブラシ脚に着目して研究している学者もいるらしい)。
大変ユニークな動きがかわいく、ますます夢中になったのだが、2人ともすぐ気がついた。体の掃除がマメな生物は、変化に敏感な可能性が高いのだ。その懸念と前評判通り難しい面が多い。きれいな海に住むので他の甲殻類より水質を選ぶ。捕食者として優れている=人工エサは厳しい。試行錯誤の2年弱が経過、今でも3~4カ月おきの脱皮期間(命がけ)は、夫婦でヒヤヒヤし通しだ。
しかしその魅力は幅広く、強い力を持っていてもむやみに使わない、慣れるとエサを手渡しでも攻撃しなくなるなど、総じて穏やかな知的生物という結論だ。困難な夢を実現してくれた夫に感謝しつつ、今後も大事に育てていきたい。