東京都立墨田産院(墨田区)=閉院=で生まれた際、誤って他の新生児と取り違えられて育った都内に住む男性(63)が5日、都を相手取り、生みの親の調査義務があることの確認などを求めて東京地裁に提訴した。代理人弁護士によると、新生児の取り違えをめぐって自治体に調査を求める訴訟は初めて。男性は同日、都内で会見し「自分の先祖が何をしていたのか、自分は何者なのかを知りたい」と訴えた。
この男性は自営業、江蔵智(えぐらさとし)さん。訴状によると、江蔵さんは昭和33年4月10日に同産院で出生した別の男児と取り違えられ、生みの親とは異なる両親へ引き渡されて育った。平成16年にDNA型鑑定で、育ての親とは血縁関係がないことが分かったという。
江蔵さんと育ての親は同年10月、産院での取り違えがあったとして、都に損害賠償を求めて提訴。1審東京地裁は取り違えを認めたが、除斥期間を適用し請求を棄却。2審東京高裁は「産院として基本的な過誤であり、重大な過失で人生を狂わされた」として計2千万円の賠償を命じ、その後確定した。
江蔵さんは都に対し、生みの親の調査を求めたが、都側は「個人の出生を調査する法的根拠がない」と回答。江蔵さんは自ら墨田区内で出生時期が近い人を調べて尋ね歩いたが、特定には至らなかった。江蔵さんは「個人では限界がある。加害者である都が、探すかどうかを決めるのはおかしい」と話した。
生みの親やその相続人が判明した場合、江蔵さんは連絡先の交換を希望しているという。