「日本のアニメ」は家電や邦画と同じ道を歩んでしまうのか

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日本のアニメに未来は?(出典:ゲッティイメージズ)
日本のアニメに未来は?(出典:ゲッティイメージズ)

技術や品質が「下」だとみくびっていた相手に、いつの間にか追い抜かれてしまう。そんな悪夢が再び繰り返されてしまうのだろうか。

最近、さまざまなメディアや専門家の間で、「日本のアニメ産業が海外で負けてしまうのでは」という脅威論が唱えられることが多くなってきた。

ご存じのように、アニメといえば日本のお家芸。ジブリにワンピース、進撃の巨人、最近では鬼滅の刃に呪術廻戦など、海外でも人気のアニメ作品は例を挙げればキリがない。が、そんな「世界一のアニメ大国」の座を、中国や韓国が脅かしつつあるというのだ。

根拠として指摘されるのは、近年、日本でアニメ制作を学んだ中国・韓国のクリエイターが帰国後、高いクオリティーの作品をつくっていることがある。また、世界に名だたる低賃金労働国家ニッポンの中でも、アニメ制作現場の過酷な労働環境は群を抜いており、ブラック労働に嫌気がさした技術者たちの「海外流出」が始まっていることも大きい。

このようなエピソードにデジャブを感じないか。そう、「日本の技術は世界一ィィ」とイキっていた家電、半導体などが、いつの間にやら自分たちよりも「下」に見ていた、中国や韓国のメーカーに追い抜かれてしまった、という負けパターンと酷似しているのだ。

もちろん、このような指摘は的外れだという意見もある。アニメのビジネスで大切なのは「国」ではなく、「ブランド」であり、海外の人気アニメランキングを見ても、日本のマンガ原作の作品が圧倒的な人気を誇っている。

中国や韓国もそれを模倣している段階なので、売り上げや市場規模を追い抜かされても、日本アニメの競争力・価値は揺らぐことがないというのだ。著作権ビジネスやコンテンツパワーの観点からも、日本が負けることはない、とおっしゃる専門家も少なくない。

「なるほどなあ」と納得する部分もあるが、個人的にはこのような意見が出てくる時点で逆に、ちょっと危ないものを感じている。

これまでの「負けた産業」を見ていくと、中国や韓国が右肩あがりで成長している事実を真摯(しんし)に受け入れず、「日本は負けない」「日本の優位性は揺らがない」と叫び続けながら衰退していく、というパターンが圧倒的に多いからだ。

■後から来たのに追い越された

例えば分かりやすいのが、白物家電だ。

2000年代前半、ハイアールなど中国の白物家電メーカーが海外進出を始めた当初、日本人の多くは「どうせ故障が多いんでしょ?」と鼻で笑っていた。専門家の間でも「日本の家電メーカーの地位は揺るがない」という見方が広まっていたので、これといった対策に動くことはなかった。

当時はまだブランドは中国や韓国であっても、それらの家電の基幹部品は日本メーカーのものを使っていることも多かったからだ。要するに、肝心の技術の部分はしっかりと握っているので、「メイド・イン・ジャパン」の競争力・価値は下がらないと安心していたのである。

だが、この甘っちょろい考えが間違っていた。「日本メーカーが危ないというのは的外れだ」と専門家が声高に主張している間に、中国メーカーはメキメキと成長して、日本メーカーを買収できるようになってしまったのだ。

12年には、パナソニックがハイアールに三洋電機の洗濯機・冷蔵庫事業を売却。16年には、東芝が白物家電事業をマイディア(中国)に売却、ハイアールがゼネラル・エレクトリック(GE)の家電事業を買収した。また18年には、東芝がテレビなど映像事業をハイセン(中国)に売却した。

このような数々の買収を経ていけば当然、中国の技術力も上がっていく。「日本の優位性は揺るがない」と胸を張っていた時代から10年も経たず、「日本の白物家電は世界一」というのは思い出話になってしまった。

この構造は、日本のコンテンツビジネスにも当てはまる。実は日本映画は1960年代前半くらいまで現在のアニメと同じようなポジションだった。「制作本数をみても邦画は年間443本で世界一を示している」(読売新聞 1958年3月28日)と他国を「下」に見ていた。

実際、小津安二郎や黒澤明などの作品は、世界の映画人を魅了した。西部劇映画『荒野の7人』は『7人の侍』をリメイクしたもので、『スター・ウォーズ』も、黒澤明の『隠し砦の三悪人』からヒントを得た。宮崎駿氏や庵野秀明氏が、世界のアニメ製作者からリスペクトされ、作品や技法が模倣されるという今と同じ現象が、50年以上前の日本映画でも起きていたのである。

では、今も日本映画の優位性は揺らいでないのかというと残念ながらゴリゴリに揺らいでいる。制作費は海外の10分の1以下でマネタイズも難しい。是枝裕和監督のような世界で活躍する映画人が、「このままでは日本の映画は本当に終わってしまう」と危機感をあらわにしている。

そんな衰退する日本映画と対照的に、勢いがあるのが長らく「下」に見ていた韓国だ。アジア初のアカデミー賞は韓国作品だ。ネットフリックスで記録的なヒットをした『イカゲーム』をはじめとして、韓国ドラマは世界市場で売れるコンテンツに成長した。

90年代まで、軍事政権でエンタメ産業が発展していなかった韓国では、民主化後は日本や米国のエンタメを徹底的に研究して、国をあげてエンタメ輸出に力を注いだ。つまり、こちらも白物家電と同じで、「後から来たのに追い越された」のだ。

■中国マネーが映画産業に

そう考えてみると、同じことがアニメでも起きる可能性は高い。

確かに、今は多くの「人気マンガ作品」を持っている日本の優位性は揺るがない。が、もしそれらの版権を持つ出版社などが、中国資本によって買収されるようになったらどうか。

三洋電機、東芝、シャープの買収が、中国メーカーの技術力向上につながったように、中国から『ワンピース』や『進撃の巨人』のような世界的ヒットのマンガが出てくるかもしれない。そうなれば、世界で売れる中国産アニメがたくさん出てくるはずなので、日本アニメの優位性だという「世界で売れるマンガ原作がたくさんある」もガラガラと音をたてて崩れる。白物家電や日本映画と同じ敗戦パターンだ。

「考えすぎだ」と思うかもしれないが、実は既に中国ではこのような買収をしていく流れで、「国産コンテンツ」のレベルをあげている先進事例がある。映画だ。

例えば、アリババは15年に『ミッションインポッシブル/ローグ・ネイション』に投資したことを皮切りに、16年には、スティーブン・スピルバーグ監督の映画会社アンブリン・ピクチャーズとの間に、共同制作、共同出資契約を結んでいる。

また、不動産大手の大連万達(ワンダ)グループは、12年にAMCエンターテインメントを買収し、世界最大規模の映画館チェーンを抱える存在になった。16年には、『ダークナイト』『GODZILA ゴジラ』などを製作している米レジェンダリー・エンターテインメントを買収した。

このように世界の映画産業には、中国マネーがジャブジャブ入っているのだ。

■中国映画のレベルが上がっている

という話を聞くと、「ハリウッド作品に中国人女優を主役にゴリ押ししたり、中国を悪役に描かないようにするだけでしょ」という感想を抱く人が多いかもしれない。確かに、中国資本の入った映画『トップガン』では、前作で主役のフライトジャケットにあった日本と台湾の国旗が消えていた、なんて話があるように、「映画のプロパガンダ利用」という問題もあるが、実はこれらの買収で中国映画のレベルも上がっているのだ。

例えば、これまで中国でヒットする作品は海外の大作映画だった。ジェトロの「中国映画/テレビ市場調査」という資料によれば、17年の興行収入トップ10のうち国産映画は4本のみで、あとはハリウッドなどの海外映画だ。

しかし、20年にはトップ10のすべてが中国国産映画になっている。もちろん、これには新型コロナの影響もあるだろうが、中国映画への「評価」が上がってきたことも無関係ではない。

『中国の人々は今、理性的に映画を選ぶようになっており、「ハリウッド映画」というだけの理由でそれをリスペクトすることはなくなり、おもしろい国産映画に対しても、より高く評価するようになっている』(人民網日本語版 2021年01月05日)

なぜ評価されるのか。一つには、「国潮」という国産ブームがある。「爆買」に象徴されるように、中国ではかつて「日本の化粧品は品質が高い」と大人気だったが、現在は中国の化粧品メーカーが人気となっている。愛国心の高まりから、「国産」が支持されているのだ。

当然、これは映画にも当てはまる。20年、中国でもっともヒットした、『エイト・ハンドレッドー戦場の英雄たちー』という映画は、日中戦争が舞台で日本軍が悪者なので、どういう内容かは見なくても分かるだろう。

ただ、この映画がヒットしたのは「中国人の愛国心を刺激したから」という単純な話ではない。総製作費が日本円で80億円なので、ハリウッドのエンタメ大作と同じレベルだ。ちなみに、メジャーな邦画の平均制作費が3.5億円である。実際、カネにモノを言わせて、『X-MEN』『ロード・オブ・ザ・リング』のVFXスーパーバイザー、ティム・クロスビーが参加している。

ただ、カネを注ぎ込んでも大スベリすることもあるのが映画ビジネスの恐ろしいところだが、この作品はちゃんと結果を出している。全世界で4億6100万ドル以上の成績を残して、20年の世界の興行収入ランキングで1位になっているのだ。

■中国アニメが日本を追い抜かす日

今年も中国では、朝鮮戦争を題材にした『長津湖』が大人気であるが、一方、中国の人気女性コメディアンが監督した『こんにちは、お母さん』という作品もヒットしている。このような幅広い作品を量産して、評価も受けるようになってきたということは、海外の映画会社を買収していくうちに、国産のコンテンツ制作能力も上がってきた可能性があるのだ。

さて、そこで話を「アニメ」に戻そう。今の中国アニメはレベルが上がってきて市場も成長しているとはいえ、まだまだ世界で人気とは言えない。一方、日本のアニメは市場も縮小してきたが、世界的に高い評価を受けている作品が多数ある。技術もある。名声のあるクリエイターも多数いる。そのような意味では、中国に負ける要素はない。

が、そこでもし中国が国策としてアニメ産業を発展させていくため、日本の出版社や漫画原作者、アニメ制作会社に触手を伸ばしてきたらどうか。

映画産業を発展させるため、中国は地政学的にバチバチやっている米国の映画会社まで買収している。これだけ近くて、経済的にもかなり依存している日本で、同じことをやらない理由が見当たらない。

そうなれば、これまでお話をしてきたようなメカニズムで、中国のアニメ産業は一気に発展していくだろう。ジブリ作品が足元に及ばないような巨額の資金が投じられ、大作がつくられ市場が活性化する。人材も多く集まるので、若いクリエイターの中から、「中国の宮崎駿」や「中国の庵野秀明」が登場してもおかしくない。

つまり、これまでは「下」に見ていた中国アニメが、日本のアニメに肩を並べる、いや、追い抜かす時代が来るかもしれないのだ。

■追い抜かす時代が来るかも

「ジャパニメーション」という言葉を世界に広めた『機動戦士ガンダム』がハリウッドで映像化される。これまでの『ドラゴンボール』などの実写化失敗から「やめてくれ」という声も多いが、日本が誇るアニメ『ガンダム』の再評価につながると好意的に受け取る方も少なくない。

が、実はこの作品を手がけているのは、先ほど触れたレジェンダリー・エンターテインメント、中国資本の入った映画会社だ。

本来、日本のキラーコンテンツなのだから、日本人の手で実写化して、日本人の手で世界で売っていくべきだ。ナショナリズムの観点ではなく、そのように自国で産業化しないと、「次」が続かないのだ。

帝国データバンクによれば、日本のアニメ制作会社300社の6割は従業員20人以下で、3割が売上高が「1億円未満」だ。中小零細企業だらけで、低賃金労働者が命を削って高いクオリティーを支えている。

本来、世界に売るコンテンツの要なのだから、国策としてこれらの小さな会社を統合・再編して、巨大なアニメ制作企業をつくらないといけない。企業規模が大きくなれば投資も呼び込めるし、賃金も上がる。輸出も促進される。韓国ドラマを世界に売るスタジオドラゴンがまさしくそれだ。

「日本のアニメは世界に人気」と言いながら、実際に潤っているのは版権ビジネスをしている人たちだけだ。「作り手」にはなかなかその恩恵がない。だからこそ、コンテンツを海外企業に売ってもうけるスタイルではなく、自国内でもしっかりと産業化をする仕組みが必要なのだ。

白物家電、半導体、造船、鉄鋼、そして邦画……「日本ブランドは揺るがない」「日本の技術は世界一」と叫びながら、次々と追い抜かされた産業と同じにおいが「アニメ」からも漂うと思うのは、気のせいか。

窪田順生氏のプロフィール:

テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。

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