カーン博士死去 「核の闇市場」 全貌は闇に

産経ニュース
2009年8月、パキスタンの首都イスラマバードの自宅で手を振るアブドルカディル・カーン博士(ロイター=共同)
2009年8月、パキスタンの首都イスラマバードの自宅で手を振るアブドルカディル・カーン博士(ロイター=共同)

【シンガポール=森浩】北朝鮮やイランに水面下で核技術などを提供したパキスタンのアブドルカディル・カーン博士が10日、首都イスラマバードで死去した。85歳だった。世界規模の核技術・関連部品売買のネットワーク「核の闇市場」を構築し、核不拡散体制を揺るがした。今も続く北朝鮮やイランの核問題の元凶ともいえるが、技術提供が個人の判断によるものなのかなどは不明のまま。全貌は闇に葬り去られた。

カーン博士は1970年代にウラン濃縮機器を手掛けるオランダの「ウレンコ社」の関連会社で勤務した。遠心分離機の技術を持ち出して、パキスタンに帰国。核開発の責任者となり、98年にイスラム圏初となる核実験を指揮した。

自国の核開発の裏で、カーン博士は「核の闇市場」経由で核兵器の設計図、部品などをイランやリビア、北朝鮮に供与。そのためカーン博士は国際社会の警戒感を招いてきた。米メディアはブッシュ(子)米元大統領が北朝鮮やイランを国際的な秩序を乱す「悪の枢軸」と批判したことを踏まえ、カーン博士を「枢軸の背後の悪」とも形容した。

英BBC放送(電子版)は死去したカーン博士について「(欧米などの核保有国が)自国の安全のために核兵器を持つのに、なぜ他国が同じ能力を持つことを否定するのかと疑念を抱いた」と指摘。その上で「おそらく核兵器開発技術の拡散には他の誰よりも責任がある」と断じた。

核技術供与をめぐっては不明な点が多い。カーン博士は2004年に「全責任は自分にある」と技術提供を認め、パキスタン政府は「金銭目的だった」と結論付けたが、核技術を個人の判断で海外に提供できるのかとの疑問は根強い。

パキスタンは核技術を提供した見返りに、北朝鮮から準中距離弾道ミサイル「ノドン」の技術提供を受けたとも指摘される。真相を語ることを警戒してか、政府は04年以降、カーン博士を事実上の監視下に置いた。

一方、パキスタン国内でカーン博士は、宿敵インドに対抗するために核実験を成功させた「英雄」だ。新型コロナウイルスに感染し、今年8月下旬に入院したが、その後退院。今月9日に体調を崩し、病院に運ばれていた。

政府はカーン博士の死去を受け10日に国葬を実施。イムラン・カーン首相は博士について「巨大な核を持つ隣国(インド)に対する安全をもたらした」とし、「国の象徴」とたたえた。

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