コロナ禍の挑戦! 天野篤医師「魂の心臓病治療」

症例を3000件積み重ね保険適用、独自の手技「左心耳切除術」で脳梗塞リスク軽減

高山さんの右足の手術痕。バイパスに使う血管を取り出した(本人提供)
高山さんの右足の手術痕。バイパスに使う血管を取り出した(本人提供)

 「今回の手術では、術後の脳梗塞を予防するために、ある部分を切除する可能性があります」

 順天堂大学医学部附属順天堂医院(東京都文京区)の天野篤医師は今年7月、IT企業勤務、高山浩一さん(仮名=55)の冠動脈バイパス手術に際して、このように説明した。

 それは、「左心耳(さしんじ)切除術」と呼ばれる術式だ。心耳は、心臓の脇の左右に耳のようにくっついているからこう呼ばれているが、問題になるのは左心耳だ。その仕組みについて天野医師は次のように説明する。

 「左心耳は左心房の上にある袋状に突起した部分で、心房細動が起こるとこの袋状の部分に血流がたまり、血栓ができやすくなります。血栓が脳に飛べば、心原性の脳梗塞に発展します」

 左心耳は盲腸のように切除しても大丈夫な“無用の長物”とされる。このため、脳梗塞のリスクを減らすため、心臓手術の際に、ついでに左心耳を切除するという考えだ。

 このメカニズムにひらめいて、切除を実践した先駆者が天野医師だといわれている。

 「最初は課題もあったが、技術には終わりはないと信じて、技術を高めていきました」

 心臓血管外科医が脳外科の領域に踏み込む画期的な技術で、天野医師は症例を3000件以上積み上げて、2020年4月から保険適用になった。体操の高難度の技にならえば、“AMANOスペシャル”とでも命名されるだろうが、天野医師本人はそんな功名心はかけらもない。

 心原性の脳梗塞は脳梗塞全体の3~4割を占め、左心耳切除術の利点はかなり大きい。とはいえ、高度の技術が求められるため、現状ではすべての医療機関で受けられるわけではないようだ。今回、左心耳切除術を追加的に受けた高山さんは「脳梗塞のリスクを減らすことができると聞いて、とてもラッキーでした」と素直に喜んだ。

 天野医師のすごさはこれだけではない。高山さんは3本の冠動脈に狭窄(きょうさく)があったため、バイパスでつなげる血管(グラフト)も多く必要になり、体の各所から切って集められた。

 人工のものを使わず、体の別のとこから自分の血管を切り出して使用するのが、冠動脈バイパス手術の真骨頂だ。自分の血管を使うため拒絶反応もなく、長持ちする利点があるという。

 高山さんのケースでは「まず、足の大伏在(だいふくざい)静脈と左右両側の内胸動脈、さらに胃大網(たいもう)動脈もバイパス用に取り出しました」(天野医師)

 大伏在静脈と内胸動脈を使うことは一般的。胃大網動脈は頑健でグラフトに適しているが、胃の周囲を通っているため、これを切除して使用するには、高い技術が伴う。できる医師は限られている。天野医師は「できるのは私だけではありません。全国の3分の1の医師ができるはずです」と控えめに語る。

 天野医師はこれまで約9000件に及ぶ心臓手術の経験の中で、このような卓越した手技を実践して患者らを助けてきた。

 今回も、連続プレーのような洗練された手技で各所の血管が冠動脈に無事縫合された。高山さんは胸部や足の手術痕を見たとき、最初はショックを受けたが、気を取り直し、その一部を紙面で公開してくれた。

 「しばらくは温泉などには入りづらいかもしれませんが、手術痕は自分の命を助けてくれた印として、いとおしい存在です」と語った。 (取材・佐々木正志郎)

 ■天野篤(あまの・あつし) 心臓血管外科医。1983年、日本大学医学部卒。97年、新東京病院で年間の冠動脈バイパス手術の症例数で日本一に。2002年、順天堂大学医学部心臓血管外科教授、12年、天皇陛下(現・上皇さま)の心臓手術を執刀、成功させた。16~19年、順天堂医院病院長。現在、同大学特任教授、順天堂理事。著書に『天職』(プレジデント社)など。

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