あの人も愛した京都「浜作」

魚好きの福田平八郎、1品ずつ料理をスケッチ

丁寧に仕上げられた鱧のお椀
丁寧に仕上げられた鱧のお椀

 浜作を象徴する絵の一つに、池田遙邨の「京の四季」がある。近代京都画壇の頭目、竹内栖鳳門下の遙邨にとって浜作は「メインダイニング」であり、日々通った。

 遙邨が京都の春夏秋冬を描き浜作に贈った大作は、新本店でもカウンターの真ん中に飾られている。遙邨は晩年、京都府立医大に入院した際も浜作の味を欲したので、浜作の当代主人、森川裕之さんは和製のポタージュスープやごま豆腐、湯葉とひろうすの炊き合わせ、ぐじの焼き物など食べやすいものを作っては病室に届けた。

 浜作と画家といえば、福田平八郎との交流が面白い。京都市立絵画専門学校(現・京都市立芸術大学)を卒業し、長らく京都画壇の中心的存在だった平八郎は、月1回開催の美食会「浜作会」のメンバーでもあった。浜作会に、いつもスケッチブックを携えてきては、1品ずつ料理のスケッチをしていた。釣りが趣味だった平八郎には魚を描いた作品も多いが、2代目の森川武は京都北部、美山の清流の鮎が手に入ると、塩焼きにして伏見の平八郎邸に届けていた。浜作が新物のマツタケなどを持参すると、しばらくしてそのマツタケを描いた絵を平八郎が持ってきたそうだ。なんというぜいたくな「物々交換」であろうか。

 京都画壇の西山翠嶂、その門下の堂本印象も浜作の常連。前回、竹内栖鳳邸の大忘年会の話を書いたが、翠嶂、印象も栖鳳邸の近くに居を構えていたので、戦前の八坂界隈(かいわい)は画壇の重鎮たちの町でもあった。近くに店のあった浜作は自然と大画家たちのサロンとなっていったというわけだ。堂本印象の弟子である由里本出さんは新本店オープンの日に駆けつけ、浜作を料理のみならず「京都文化のとりで」と表現した。

 新本店オープンの日は夏の盛りだったが、夏の京都の魚といえば鱧(はも)。私が新本店を訪れた日も森川裕之さんは十数人分の鱧の骨切りをカウンターの中で披露された。シャッシャッとリズミカルな音を響かせながら骨を切り、皮は半分だけ残す美技はまさにパフォーマンスだ。それでも当代いわく「おじいちゃんの包丁さばきはこの何倍も速かった」とのこと。だしの中で花のように開いた鱧は、ほどよく脂が乗って、「これが本当に鱧か」と思うほど口の中で溶けるように柔らかい。夏の京都を食しながら、魚好きの平八郎に思いをはせた。

 ■大野裕之(おおの・ひろゆき) 脚本家、演出家。1974年、大阪府生まれ。京都大学在学中に劇団「とっても便利」を旗揚げ。日本チャップリン協会会長。脚本・プロデュースを担当した映画に『太秦ライムライト』、『ミュジコフィリア』(11月19日公開予定、谷口正晃監督。井之脇海、松本穂香、山崎育三郎出演)。先ほど『ディズニーとチャップリン エンタメビジネスを生んだ巨人』(光文社新書)を上梓した。

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