コロナ禍の挑戦! 天野篤医師「魂の心臓病治療」

約9000例目の手術、平常心で無事成功

真剣な表情で手術に臨む天野医師(順天堂医院提供)
真剣な表情で手術に臨む天野医師(順天堂医院提供)

 東京都などに非常事態宣言が出され、各病院ではコロナ対策で付き添いや見舞いを原則、禁止している。順天堂大学医学部附属順天堂医院(東京都文京区)で冠動脈バイパス手術を受けることになったIT企業勤務、高山浩一さん(仮名=55)も例外ではなかった。

 2021年7月16日に入院。「病棟の入口まで妻は付き添ったが、病室には1人で入りました」(高山さん)。天野篤医師の手術を2日後に控えた18日、手術チームの町田洋一郎医師(病棟長)から最終の術前説明があった。この時は、妻の同席が許され、一緒に手術内容やリスクなどについて詳しい説明を受けた。

 7月20日、手術。高山さんはストレッチャーに移され、手術室へ。手術台に仰向けに寝せられ、周囲をみると、医師や看護師たちに囲まれた。「こんなにたくさんのスタッフがいるんだ」と感じた。

 「間もなく麻酔が入ります」と言われたのが最後で眠りにつき、次、意識が戻ったのは集中治療室(ICU)のベッドの上だった。点滴の管や血液などを体外に出すドレーンがついているのを確認しつつ、「自分は生きている」と実感した。コロナ以前なら、意識が戻ったとき、傍らには家族がいて、一緒に喜びをかみしめる感動的な風景があったはず。しかし、この時、高山さんは1人。術前説明を最後に、妻は病棟に入ることは許可されず、見舞いの人も一切入れなかった。

 順天堂ではこのように徹底した感染予防体制が敷かれていた。

 冠動脈3本に狭窄(きょうさく)を抱えた高山さんの手術は、麻酔導入を含めて6時間半かかる大手術となった。まず、胸をメスで開き、心臓を見えるようにする。詰まった冠動脈の先に、自分の体から切除して取り出した別の血管を縫い合わせバイパス(迂回路)をつくる。そして、胸骨を再結合して胸を閉じる。手術は成功した。

 「今回は先天性の走行異常が1カ所認められた以外は、想定内でした。医師にとっては多くの手術の一件ですが、患者さんにとっては、おそらく一生に1度の手術になります。私はいつも通り平常心で落ち着いて手術に当たりました」

 天野医師はそう話す。

 成功した手術件数は医師にとっては勲章である。天野医師は1997年、新東京病院(千葉県松戸市)で年間の冠動脈バイパス手術の症例数で日本一に。症例数と手術の質の高さで心臓血管外科の第一人者になり、2012年には天皇陛下(現・上皇さま)の冠動脈バイパス術を執刀し、成功させた。

 「若いころは手術件数を数えていましたが、いまは数えていません。高山さんの手術は、約9000件目になりました」(天野医師)。

 これは天野医師が最初に手術をした35歳から60代のこれまでの通算手術数となる。もちろん国内トップの症例数である。

 心臓手術は主に、人工心肺を使うオンポンプ手術と、人工心肺を使わないオフポンプ手術があるが、今回は後者だった。「年齢も若く、心臓の動きが割と強かったためと説明されました」(高山さん)。

 天野医師はこのオフポンプ術の名手とされる。心臓を動かしたまま心臓にバイパスの血管を縫い付けるこの術式には高い技術が必要となる。天野医師は高山さんの手術について「いつもと変わらない手術をしただけ」と多くを語らないが、この時も熟練の技が随所に発揮されていた。次回、詳しく紹介する。 (取材・佐々木正志郎)

 ■天野篤(あまの・あつし) 心臓血管外科医。1983年、日本大学医学部卒。97年、新東京病院で年間の冠動脈バイパス手術の症例数で日本一に。2002年、順天堂大学医学部心臓血管外科教授、12年、天皇陛下(現・上皇さま)の心臓手術を執刀、成功させた。16~19年、順天堂医院病院長。現在、同大学特任教授、順天堂理事。著書に『天職』(プレジデント社)など。

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