コロナ禍の挑戦! 天野篤医師「魂の心臓病治療」

50代会社員、仕事でストレス 生体の摂理で心筋梗塞免れるも…冠動脈の狭窄は「重症」 バイパス手術を提示

 前回お伝えした通り、IT企業勤務、高山浩一さん(仮名=55)は心臓の冠動脈が3本とも狭窄(きょうさく)している重度の狭心症と診断された。それでも心筋梗塞発症を免れてきたのは、ある生体の摂理が働いていた可能性がある。

 「左冠動脈の左前下行枝、左回旋枝の2本はとくに狭窄がひどく、残りの右冠動脈にも狭窄がある。ただ、その右冠動脈から新たな血行の枝が伸びており、それが他の血流を補う形となっているようです」

 順天堂大学医学部附属順天堂医院(東京都文京区)の心臓血管外科医、天野篤医師は高山さんに向き合い、このように説明した。血行が自力で形成される、そんなことがあるのだろうか。

 「これは側副血行と言います。すべてのケースではありませんが、心臓に血液が届かなくなる虚血状態を防ごうとして出現することがあります」(天野医師)

 高山さんが最初に胸の苦しさを訴えたのが2020年10月。地元のクリニックを受診し、心電図検査を受けたが、異常は見つからなかった。今年4月、総合病院で狭心症と初めて診断され、「冠動脈1本で100%の血流だとすると、あなたは3本の合計300%のうち、10%程度しか機能していません」と言われた。

 7月に順天堂に転院したが、こうした危険水域にあった中、心臓に栄養素を必死に送っていたのは、新たに形成された側副血行だったということになる。

 冠動脈を含めた動脈硬化のそもそものリスク因子は、運動不足、食べ過ぎ、加齢などが挙げられる。これらによって高血圧、糖尿病、脂質異常症を発症し、それぞれの病気が動脈硬化を引き起こす。

 動脈硬化はサイレントキラーと言われるように、ほとんど自覚症状がないままに進行し、血管内の狭窄・閉塞に至ることが少なくない=図参照。冠動脈の閉塞なら心筋梗塞に、脳やその周辺の血管なら脳梗塞に発展する。

 高山さんはテニスなどスポーツを好み、体形も太っておらず、年齢はまだ50代。会社の人間ドックでは基礎疾患も指摘されたことはなく、自分は健康体と信じてきた。それだけに、「狭心症と診断されて、まさか自分が…」とかなり驚いたという。

 天野医師からは、これらのリスク因子以外の原因として「ストレスや塩分の摂りすぎもあります」という説明を受けた。言われてみれば、勤務先では急がされる仕事などでストレスが多かったり、若い時からラーメンが好物だったりなど思い当たる節があった。

 狭心症の治療にはさまざまな選択肢がある。代表的なものに、薬物療法、カテーテル治療(冠動脈の狭窄部分にステントを入れて広げる方法)、冠動脈バイパス手術(心臓に他の血管を接合し、新たな血管を作る方法)がある。

 狭心症のご治療で天皇陛下(現・上皇さま)は2012年、天野医師執刀による冠動脈バイパス術を選択された。

 「陛下は手術後に、外遊をはじめご公務を積極的に復活させたいとのご希望がありました。カテーテル治療も選択肢に入りましたが、術後に薬物治療を継続する必要があり、海外への長時間の渡航中に支障が出ることもあります。陛下は完全な治癒を望まれ、バイパス手術を選ばれました」(天野医師)

 手術は成功し、その後、陛下はご希望通り、海外ご公務を復活させて、歴史に残る生前ご退位が実現する。

 高山さんの冠動脈の狭窄は重症で、カテーテル治療ではもはや難しく、天野医師は即座にバイパス手術を提示した。コロナ禍で医療機関もさまざまな制約を受ける中、その手術は7月20日に設定された。 (取材・佐々木正志郎)

 ■天野篤(あまの・あつし) 心臓血管外科医。1983年、日本大学医学部卒。97年、新東京病院で年間の冠動脈バイパス手術の症例数で日本一に。2002年、順天堂大学医学部心臓血管外科教授、12年、天皇陛下(現・上皇さま)の心臓手術を執刀、成功させた。16~19年、順天堂医院病院長。現在、同大学特任教授、順天堂理事。著書に『天職』(プレジデント社)など。

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