安全保障最前線

米海軍大将の著作「2034」に問題あり 現実離れしたシナリオ、サイバー攻撃を過剰に重視

小説『2034』の表紙
小説『2034』の表紙

 元NATO(北大西洋条約機構)軍最高司令官、ジェームス・スタヴリディス米海軍大将(退役)の小説『2034』は米中核戦争を扱っており、米国では10万部以上のベストセラーになっている。しかし、大将が書いた著作としては問題が多い。

 まず、シナリオに問題がある。

 『2034』では、米海軍の艦艇37隻が中国海軍に撃沈され、米本土の重要インフラにも大規模なサイバー攻撃を受ける。米国は報復として、中国の湛江市に戦術核攻撃を行う。中国はこれに対し、米国の2都市に戦術核攻撃を行い、米国はさらなる報復として、中国の上海市を含む3都市に核攻撃を行う-というストーリーだが、現実離れしている。

 現代戦は、あらゆる軍事的・非軍事的手段を使った「全領域戦」に移行していて、情報戦、宇宙戦、電磁波戦、金融戦などあらゆる戦いを駆使する。私は米中戦争においては、EMP(電磁パルス)攻撃や、米国の衛星に対する攻撃が効果的だと思う。

 EMP攻撃では、核弾頭を数十キロ上空で爆発させ、発生した電磁波により、電子機器が破壊され、航空機などの交通機関、電力網、金融機関などに壊滅的な打撃を与える。人や建物などには被害を与えないので、EMP攻撃の方が戦術核攻撃よりも可能性が高い。

 また、米国の衛星に対する攻撃は有力で、米軍の指揮統制機能に壊滅的な打撃を与えることができ、「核攻撃の応酬」というシナリオよりもリアリティーがある。

 『2034』は、サイバー攻撃を過剰に重視している。

 例えば、米国の最新鋭ステルス戦闘機「F-35」のシステムがハッキングされ、遠隔操縦されるという場面や、中国海軍が米海軍艦艇のシステムにサイバー攻撃をかけてダウンさせてしまう場面が出てくるが、戦闘機や艦艇のシステム全体をサイバー攻撃でダウンさせることは、米軍の対抗手段を考えると現実的でない。

 サイバー戦能力について、インドの能力が一番高く、次いで中国、米国が一番低いという設定になっているが、これは現実的ではない。英国の国際戦略研究所(IISS)のサイバー戦能力に関する分析によると、米国が断トツで、2等国が中国、ロシア、英国、イスラエルなどで、3等国が日本、インド、北朝鮮などである。

 つまり、米国、中国、インドの序列であり、2034年においてインド、中国、米国の順になるとは、とても思えない。

 結論として、『2034』が最悪のシナリオを提示したかった意図は分かるが、核攻撃とサイバー攻撃を強調しすぎで、リアリティーがない。 =おわり

 ■渡部悦和(わたなべ よしかず) 元陸上自衛隊東部方面総監、元富士通システム統合研究所安全保障研究所長、元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー。1955年、愛媛県生まれ。78年東京大学卒業後、陸上自衛隊に入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、第28普通科連隊長(函館)、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011年に東部方面総監。13年退職。著書に『自衛隊は中国人民解放軍に敗北する!?』(扶桑社新書)、『中国人民解放軍の全貌』(扶桑社新書)など。

zakzak

  1. キッチンで使える。電気がいらない生ごみ処理機「自然にカエルS」

  2. 【衆院選2021年秋】与野党“落選危機リスト”大物・著名候補28人 東京18区・菅直人氏が大接戦 大阪は三つどもえ 岩手3区・小沢一郎氏は高齢も意気軒昂

  3. 市から突然1300万円請求…なぜ? 年金生活の80代女性に 専門家「今後数年で同様の高額請求を受ける人は増える」

  4. 内田理央のおっぱい写真にファン大興奮「一瞬ビビった」「萌え死んだ」