安全保障最前線

アフガン紛争、イラク戦争に不適用だった米の軍投入6原則「ワインバーガー・ドクトリン」 対テロ戦争が20年間続いた原因に

 サダム・フセイン大統領率いるイラクが1990年、クウェートに侵攻した。これを排除するために行われた湾岸戦争は、実質的に「ワインバーガー・ドクトリン」に基づいて行われ、米軍の作戦は大成功だった。

 このドクトリンは、84年当時に国防長官であったキャスパー・ワインバーガー氏が提唱したもので、ベトナム戦争の失敗などを教訓にした軍の選択的介入を柱にしていた。以下の6つの原則を満たさなければ、軍を投入すべきではないとしている。

 (1)米国または同盟国の死活的な利益が危機にひんしている場合。

 (2)軍の投入は、誠心誠意、明確な勝利の意思をもって実施すること。

 (3)明確な政治的目標と軍事的目標を持って、その目標を達成するために十分な能力があること。

 (4)政治的・軍事的目標と投入兵力・構成の関係は、継続的に見直すこと。

 (5)軍事介入に議会と世論の支持があること。

 (6)軍の投入は最終手段として考慮されるべきこと。

 以上の原則に照らして、アフガニスタン紛争を振り返ると、(1)と(5)に関しては、米中枢同時多発テロ事件に伴った軍隊の投入であり、この原則を満たしている。(2)も満たしている。

 しかし、問題は(3)と(4)である。ヘンリー・キッシンジャー元国務長官をはじめ、多くの識者は「達成可能な目標を明確にすべきだったが、政治的目標は抽象的過ぎて捉え所がなく、軍事的目標は絶対的過ぎて達成不可能だった」と主張している。

 そもそも、歴代米政権が掲げた「アフガンを近代的な民主主義国家にする」という目標は達成不可能な目標だったのだ。アフガンは、歴史的に各部族が部隊を保有する封建的な国であり、各部族は中央集権的な国家統治に激しく抵抗してきた。

 彼らが望んだのは「イスラム法に基づく統治」であり、民主主義による統治ではなかった。米国の民主主義国家建設の押し付けは、実行不可能だった。

 米軍はいつ撤退すべきだったか。

 ワインバーガー・ドクトリンにのっとると、目標がイスラム原理主義勢力「タリバン」や、国際テロ組織「アルカーイダ」の排除であれば、2002年までに排除は終了しており、その時点で米軍を撤退させるべきだった。

 目標が、米中枢同時多発テロ事件の首謀者、ウサマ・ビンラーディンの排除であれば、米海軍特殊部隊「シールズ」が11年5月、パキスタンで殺害した時点で米軍を撤退させるべきだったのだ。

 いずれにしろ、ワインバーガー・ドクトリンが、アフガン紛争やイラク戦争に厳格に適用されなかったことが、米国の対テロ戦争が20年間も継続した原因の1つだと思う。

 ■渡部悦和(わたなべ よしかず) 元陸上自衛隊東部方面総監、元富士通システム統合研究所安全保障研究所長、元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー。1955年、愛媛県生まれ。78年東京大学卒業後、陸上自衛隊に入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、第28普通科連隊長(函館)、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011年に東部方面総監。13年退職。著書に『自衛隊は中国人民解放軍に敗北する!?』(扶桑社新書)、『中国人民解放軍の全貌』(扶桑社新書)など。

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