井崎脩五郎のおもしろ競馬学

モンゴル勢の強さ、馬もひと役

産経ニュース

「わたし、名前が春雄なんで、照ノ富士春雄をずっと応援してるんですよ」

近所の青果店の主人がそう言う。

「だから、序二段まで落ちたときはつらかった。その番付表に向かって朝夕、ガンバレ、ガンバレと言ってました」

見ると、店の壁に一枚の番付表が張ってあった。近づいて目をこらしたら、平成31年春場所の番付表。

5段組の、その下から2段目のところに、「モンゴル 照ノ富士春雄」と、米粒のように小さい文字で書いてあった。店主が「わたしが塗ったんですよ」という蛍光塗料のおかげで見つけることができたが、ふつうだと、拡大鏡の助けを借りないと探し出すのはとても無理。

それにしても、よくもまあ、こんなに下位の番付から、今場所の新横綱という地位まで登ってきたものだと思う。けがと内臓疾患で力が入らず、ズルズルと押し出されて、番付がどんどん下がっていくシーンを記憶しているだけに、あのあと頑張ったんだなあと感嘆する。店主は、「つらいことがあっても、この番付表を見て、へこたれるもんかと思うんですよ。元気の源です」と笑った。

そうだ、と、いま評判になっている『世界のおすもうさん』(岩波書店)を読んでみた。照ノ富士の生まれ故郷であるモンゴルの〝ブフ〟(モンゴル相撲)について触れた一章があった。

モンゴルの子供たちは、遊びといえば相撲で、とくに遊牧民の子供たちは、日ごろから動物の相手をしているので力があるのだという。

<三歳くらいになったら一人で子羊を持ち上げて運ぶから、腕の力が半端ない。また日常的に馬に乗り体幹が鍛えられている。一人前の男になれば、暴れ馬の耳を持って、ヒョイッと足払いをして倒すこともできる>

そうか、大相撲におけるモンゴル勢の強さには馬もひと役買っているのかと分かった。

この本、京都両洋(りょうよう)高校の女子相撲部に取材した「女子高生のおすもうさん」も目からうろこの、出色の面白さ。泣けますよ。(競馬コラムニスト)

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