東京・池袋で2019年4月、乗用車が暴走し、9人が死傷した事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三被告(90)に、東京地裁(下津健司裁判長)は禁錮5年(求刑禁錮7年)の実刑判決を言い渡した。在宅で捜査が行われ、「上級国民」との指摘もあったが、飯塚被告は収監されるのか。
公判で弁護側は、自動車の電気系統の異常でブレーキが利かなくなったと主張したが、判決は「異常や故障の痕跡はなく、仕組みや構造からも考え難い」と退けた。
亡くなった松永真菜さん=当時(31)=と長女、莉子ちゃん=同(3)=の遺族、松永拓也さん(35)は判決後の記者会見で「むなしい思いもあるが、遺族が少しでも前を向いて生きていくきっかけになる」と話した。飯塚被告は判決に不服があれば2週間以内に控訴することができる。松永さんは「心情としてはこれ以上争いたくないが、控訴する権利は尊重している」と強調した。
元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏は、判決について「飯塚被告は公判で罪を認めず反省する様子もなかったようだが、事故以前は90年近く真面目に生きてきたともいえる。求刑通りの禁錮7年では厳しいとした妥当な判断ではないか」と指摘する。
禁錮は懲役と同様に身体の自由を奪う刑罰で、刑務作業には希望者のみ従事する点が懲役との違いだ。刑事訴訟法では「著しく健康を害するときや生命を保てない恐れがあるとき」や「70歳以上」の場合、刑の執行を停止できると規定し、弁護人の求めに応じて検察が停止を判断することもある。
判決が確定した場合の刑の執行について若狭氏は、「最初から執行停止と判断すれば遺族の神経を逆なでし、批判が検察に向く恐れもある。検察はあくまで実刑収監を求めるだろうが、刑務所の受け入れ体制や収監後の被告の体調によっては停止を判断する可能性もあるのではないか」との見通しを示した。