吉野家とすき家の「牛丼並盛」に、37円の差がある意味 コロナ禍で明暗を分けた戦略を読み解く - イザ!

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吉野家とすき家の「牛丼並盛」に、37円の差がある意味 コロナ禍で明暗を分けた戦略を読み解く

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外食産業が苦戦する一方、すき家を運営するゼンショーHDは善戦
外食産業が苦戦する一方、すき家を運営するゼンショーHDは善戦

飲食店コンサルタントの三ツ井創太郎です。外食業界は長引くコロナ禍や緊急事態宣言の延長で大変厳しい状況が続いています。そんな中、大手牛丼チェーン「すき家」などを展開するゼンショーホールディングス(HD)の2022年3月期第1四半期(21年4~6月)決算が発表されました。その結果は、売上高1526億円(前年同期比18.9%増)、営業利益28億円(前年は46億円の赤字)という好業績でした。

今回はコロナ禍における牛丼チェーンの動向について分析をしていきたいと思います。

まず、牛丼チェーンを展開している大手3社の今年の第1四半期決算を見ていきます。

ゼンショーHDは売上高1526億円、営業利益28億円でした。業界2位の吉野家HDは売上高364億円、営業利益は2億円の赤字となりました。松屋フーズHDは売上高225億円、営業利益は8億円の赤字となっています。

各社、牛丼以外の業態を含んだ決算ではありますが、ゼンショーHDのみが営業黒字という結果でした。

次に、各社の牛丼ブランドにおける直近4カ月間の売り上げ動向を見ていきます。

すき家の既存店売上高前年対比は上期累計(21年4~7月)で売上高112.2%、客数109.6%、客単価102.3%と全ての指標が前年を上回っている状況です。

吉野家は売上高94.7%、客数91.0%、客単価104.0%と客数の低下を客単価でカバーすることができませんでした。そのため、売上高が94.7%と前年を下回っている状況です。

松屋は売上高103.5%、客数97.9%、客単価105.7%でした。客数の低下を客単価でカバーし、売上高は前年を上回っています。

業界1位、3位が前年を上回る中で、2位の吉野家のみが前年を割り込みました。業界1位のすき家と2位の吉野家の明暗を何が分けたのでしょうか?

立地戦略から見る業績への影響

業績の明暗を分けた要因の一つに「立地戦略」があります。すき家と吉野家にはどのような違いがあるのでしょうか。

すき家は全体的に郊外ロードサイドの店舗が多いという特徴があります。実際にすき家の公式Webサイトを確認すると「ドライブスルーを備えた郊外型店舗を中心に出店していく」という方針が打ち出されています。一方、吉野家はすき家に比べて繁華街型の店舗が多いという特徴があります。

コロナ前は「優良立地」とされていた都心や繁華街。こうした人口密度が高い場所も、長引くコロナ禍に伴う自粛や在宅ワークなどの浸透により、その優位性が薄れてきています。

両ブランドの立地戦略の違いは、都道府県別の店舗数からも見えてきます。

今回は、各都道府県の人口を両ブランドの店舗数で割ることで、1店舗当たりの人口を算出していきます。

「1店舗当たり人口=都道府県人口÷店舗数」

これは、外食チェーンが全国展開を行う際に用いる分析手法の1つです。そのエリアでの展開店舗数の限界値を見極める際に使います。日本国内の外食企業が海外進出を行う際、マーケットポテンシャルを見極める際にも活用します。

全国合計で見るとすき家は人口約6万5000人に1店舗です。一方、吉野家は人口約10万6000人に1店舗でした。吉野家はすき家より多くの商圏人口を必要とするビジネスモデルであることが分かります。逆に考えると、すき家は吉野屋よりも少ない商圏人口で成り立つビジネスモデルだといえます。

なお、全国合計で見ると、すき家は吉野家の約1.6倍の店舗数となっています。都市部以外に目を転じると、吉野家の約4倍の店舗を出店している地域も多くあります。地方になればなるほど、すき家の店舗数が多いことが分かります。ちなみに、吉野家がすき家よりも出店数が多いのは宮城県と奈良県のみなります。

立地戦略が異なれば、当然ながらターゲットやメニュー戦略も変わってきます。

そこで次に両ブランドのメニューの分析をしていきます。

すき家と吉野家のメニュー分析

両ブランドの全メニュー(季節・店舗限定メニューを除く)を分析していきます。

すき家と吉野家のメニューカテゴリー数を集計しました。両ブランドで大きく異なる点は、牛丼のバリエーションの数です。すき家には13アイテムの牛丼メニューがあり、吉野家の牛丼メニューは5つです。基本的な牛丼のラインアップは両ブランドともあまり変わりませんが、すき家では「とろ~り3種のチーズ牛丼」「鮭オクラ牛丼」「エビチリ牛丼」「ビビンバ牛丼」といったように、牛丼から派生したバリエーションメニューが豊富です。そのため、牛丼カテゴリーのメニュー数が多くなっています。

さらに、すき家には吉野家にはない「海鮮丼」が5アイテム、「中華丼」が3アイテムあります。デザートメニューに関しても「なめらかカラメルぷりん」「とろけるダブルショコラ」など、吉野家には無いメニューラインアップが多数あります。

全体のメニュー数も吉野家が77品に対して、すき家が91品とすき家の方が14品程多くなっています。このように、メニューラインアップの幅を広げ、周辺の牛丼以外の競合飲食店の需要も含めて取り込んでいく戦略を「包み込み戦略」といいます。

こうしたお話をすると「どのお店も包み込み戦略をすれば良いのでは?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、包み込み戦略を行うためには、メニューアイテム数増加に伴う「厨房設備の増加」「オペレーションの複雑化」「食材ロスの増加」といった課題への対応が必須となります。企業にとっては、長年にわたるノウハウの蓄積が必要となるため、一朝一夕にはできないという側面もあります。

すき家と吉野家の価格戦略

次に価格戦略を見てみます。例えば牛丼の価格に関してですが、最もオーダー率が高い並盛で比較をすると、すき家は350円、吉野家は387円です。すき家の方が37円安くなっています。しかし、牛丼カテゴリーにおける並盛の全アイテムの平均単価を見てみると、すき家は508円、吉野家は490円となっており、すき家の方が18円高くなっています。

つまり、すき家は最下限価格(カテゴリー内の中でも最も安い価格)を吉野家より安く設定しておきながらも、580円以上の高単価の牛丼バリエーションメニュー(鮭オクラ牛丼、エビチリ牛丼、ビビンバ牛丼)を複数展開することで、カテゴリー単価アップを図っているともいえます。こうした戦略を私は「心理的最下限価格戦略」と呼んでいます。

消費者がそのお店の価格を判断する際に基準となる商品(オーダー率が高い)の価格を低く設定することで、心理的な“安さ感”を打ち出します。そして、「価格に敏感(価格弾力性が高い)な客層」を取り込んだ上で、高価格帯に魅力的な商品群を配置することで単価アップを図っていく戦略です。

他の業態の事例で説明します。例えば、焼肉店においては、オーダー率の高い「並カルビ」の値段を下げて安さ感を演出をします。その上で、上カルビや希少部位といった高単価メニューをしっかりとオススメ販売することで客単価アップを図っていきます。

ハンバーガーチェーン業界ではどうでしょうか。ケンタッキーフライドチキンは、ランチタイムの価格帯を安く設定した上で、「価格に敏感(価格弾力性が高い)な客層」を取り込みます。そして、季節限定メニューなどで「高付加価値商品を求める(価格弾力性が低い)客層」を取り込んでいく「2層マーケティング戦略」によって、長引く業績不振からのV字回復に成功しています。

立地戦略が関係するメニューとラインアップ

すき家と吉野家のメニュー数やラインアップの違いは、出店立地戦略の違いも一つの要因になっています。

大商圏の繁華街を中心にサラリーマンや1人客をメインターゲットにしている吉野家は、メニューラインアップの幅をできる限り広げない戦略で経営の効率化を図っています。一方、郊外のロードサイドを出店戦略の中心に据えているすき家においては、ファミリー客といった幅広い客層のニーズに対応するべくメニューラインアップに幅を持たせる戦略を展開しています。こうしたターゲットや出店戦略がコロナ禍という環境の中で功を奏し、競合が苦戦する中でも好業績を上げている要因になっています。

こうした傾向は、牛丼チェーンに限ったことではありません。居酒屋業界においても今までは一等立地とされていた繁華街よりも、やや住宅街に近く週末のファミリー利用などが取り込める立地の方がコロナ禍においては集客ができているという現象も多数みられます。

コロナ禍によって「良い立地」の定義が変わってきています。こうした傾向は今後の飲食店の出店戦略にも大きな影響を及ぼすことが予想されます。

最後までお読み頂きありがとうございました。

著者プロフィール

三ツ井創太郎

株式会社スリーウェルマネジメント代表。数多くのテレビでのコメンテーターや新聞、雑誌等への執筆も手掛ける飲食店専門のコンサルタント。大学卒業と同時に東京の飲食企業にて料理長や店長などを歴任後、業態開発、FC本部構築などを10年以上経験。その後、東証一部上場のコンサルティング会社である株式会社船井総研に入社。飲食部門のチームリーダーとして中小企業から大手上場外食チェーンまで幅広いクライアントに対して経営支援を行う。2016年に飲食店に特化したコンサルティング会社である株式会社スリーウェルマネジメント設立。代表コンサルタントとして日本全国の飲食企業に経営支援を行う。最近では東京都の中小企業支援事業の選任コンサルタントや青森県の業務委託コンサルタントに任命される等、行政と一体となった飲食店支援も積極的に行っている。著書の「飲食店経営“人の問題”を解決する33の法則(DOBOOK)」はアマゾン外食本ランキングの1位を獲得。

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