トイレの個室に「使用時間」を表示 で、どうなったのか? - イザ!

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トイレの個室に「使用時間」を表示 で、どうなったのか?

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商業施設にあるトイレの不満(出典:国土交通省)
商業施設にあるトイレの不満(出典:国土交通省)

そわそわそわそわ――。

外出先のトイレで、このように感じたことがある人も多いはず。国土交通省が実施した調査を見ても、外出先のトイレで重視することとして「混雑がないこと」(8.7%)が2位にランクイン。不満の項目に目を向けると、商業施設、空港、PAなどで「利用するために行列に並ばなければいけない」を挙げる人が最も多いのだ。

日本のトイレはキレイになった。和式ではなく洋式が増え、温水洗浄便座を設置しているところも増えてきた(家庭での普及率は8割を超えている)。トイレの入口には扉がなく、手を洗うときも自動で水が出てきて、なにかに触れることが少なくなった。

こうした状況なので、海外に行ってトイレを使うたびに「ああ、やっぱり日本っていいなあ」としみじみ感じるわけだが、そわそわそわそわ問題はほとんど手をつけてこなかったのではないだろうか。いや、あれこれ試してはいるものの、いまの状況を考えると、うまくいっているとは思えない。

「そんな課題を解決しよう」といった動きが、ぽつぽつ出ている。個室の利用状況を確認できるサイネージを設置したり、スマホのアプリで把握できたり。さまざまなサービスが出ているが、個人的に気になっているのはバカン社(東京都千代田区)が提供している「VACAN AirKnock(バカン エアーノック)」(以下、エアーノック)だ。

なぜこのサービスに注目しているのかというと、混雑状況の情報を誰に発信しているのかに違いがあるから。サイネージやアプリなどで確認できるのは「これから利用しようとしている人」だが、同社のサービスは「これから利用しようとしている人」だけでなく、「いま利用している人」に向けても届けているのだ。

どういった仕組みなのかというと、手のひらサイズに収まるセンサーをトイレの扉に設置して、誰もいなければ「空き」、誰かいれば「使用」といった具合に検知する。こうした混在状況が分かるサービスも提供しているが、個室内の壁面に設置されているタブレット端末にも表示されるようにしたのだ。そのサービスが「エアーノック」である。

例えば、使用しているトイレ内に個室が5つあって、そのほかの個室が空いていれば「空いています 残り個室2/5」といった文言が映し出されるのだ。すべて利用されていると、「満室になりました 残り個室0/5」のほかに、「現在の滞在時間 60分以上」などと表示される。

混雑解消に効果

このように書いても「そんな文言を表示したところで、効果なんてあるの?」と思われたかもしれないが、結論から言うと「あった」のだ。

2020年、とあるオフィスで実証実験を行ったところ、次のような結果が出た。センサーを設置しているトイレにエアーノックを導入し、その前後の状況を分析したところ、30分以上の利用が64%も減ったのだ。30分以上だけでなく、20分以上も43%減、15分以上も29%減と、混雑解消に役立っていることが分かってきたのだ。

実験で使われたトイレには個室が24室あって、月間(20営業日換算)でみると、359時間も削減できたことになる。このような数字を目にすると、会社の上層部は「なぬーっ! ゆ、許せん!」と怒りマックスになって、定期的に「使用中のトイレをノックせよ!」「担当者はお前だ!」などと決めてしまうかもしれないが、冷静になっていただきたい。

体調不良などの理由で、どうしても長時間利用にならざるを得ない人もいるので、個室にこもることが必ずしも悪いことではない。問題はスマートフォンの画面をじーっと見て、気付いたら長時間滞在しているケースだ。筆者は用を済ませればその場をすぐに離れるタイプなので、滞在時間は5分ほどだと思うが、バカン社の担当者に聞いたところ「30分以上利用している人はまあまあいる」そうだ。その理由として、圧倒的に多いのが、やはりスマホの利用だという。

それにしても、なぜ同社はこのようなサービスを開発したのだろうか。河野剛進社長に聞いたところ「子どもと一緒に商業施設に行って、飲食店を探したところどこも満席でした。探し回っているうちに、子どもが泣き出してしまいまして。こうしたつらい思いはしたくないなあ。限られた時間を大切にしたいなあ。このようなことを考えているうちに、“空き状況が分かる”サービスに価値があるのではないかと考えました」とのこと。

その後、飲食店の混雑具合を検知するサービスをローンチした。混み具合を知りたいのは、飲食店だけなのだろうか。トイレも行ってみなければ分からないので、「混雑を抑止できるようなサービスが必要ではないか」(河野さん)と考え、開発を始めたという。

開発は難航

「さあ、つくるぞー」と決意するものの、開発は難航した。トイレの扉にセンサーを設置するといっても、誰も使っていないときには開くように設計されている扉もあれば、誰も使っていないときもきちんと閉まる扉もあれば、多目的トイレなどで使われている引き戸もある。大きく分けてこの3つのタイプに適したセンサーを開発するのに時間を要するが、人感センサーなどを組み合わせることでプロダクトを完成させたのだ。

話は前後するが、商品開発に着手する前、河野さんの耳にこのような声が届いた。「スマホの電波を妨害するようなモノを設置すれば、長時間滞在する人が減るのでは?」と。しかし、こうした仕組みを導入して、誰が喜ぶのだろうか。「嫌なことをされて行動を変えるよりも、優しいアプローチがあるのではないか」と河野さんは考えて、個室内に情報を表示する方法を生み出したのだ。

優しいアプローチといえるかどうか分からないが、抑止力を狙った方法として、ステッカーがある。個室の壁などに「トイレでの長時間使用禁止」などと書かれたステッカーを見たことはないだろうか。

「うーん、ちょっと思い出せないなあ」という人もいるだろうが、それは仕方がないのかもしれない。新型コロナ感染防止のために、政府が「不要不急の外出は控えてください」を何度も何度も言っているうちに“慣れ”が生じているように、こうしたステッカーも何度も何度も見ているうちに、効力が薄れていったのかもしれない。

行動変容を促すことに

ステッカーを何度も目にしているうちに、慣れてしまって、記憶に残らなくなってしまった。となると、個室内のタブレットに表示される文言にも慣れてしまうのではないだろうか。「現在の滞在時間 30分以上」という文字が映し出されても、「はいはい、いつものやつね」といった感じで、1ミリも気にしない人もいれば、「1時間まで、あと30分は使えるな」と時計代わりに利用する人も出てくるかもしれない。

こうした“慣れ問題”は今後の心配材料ではあるものの、実証実験の結果を受けて、エアーノックを導入する企業は増えている。例えば、ファミリーマートは渋谷区、新宿区、豊島区の130店で導入した。

ちなみに、実証実験は国内だけでなく、中国でも行っていて、日本と同じような結果が出ている。扉を「コンコンコン」とノックをされて、「早く出てよ」というプレッシャーをかけられたわけではなく、周りの状況を知らせることによって「あ、出ようかな。困っている人がいてるかもしれないので」と行動変容を促すことに成功しているのだ。日本発の優しいアプローチが、ひょっとしたら海外でも普及するかもしれない。

エアーノックには「空いています」「満室になりました」といった文言が表示されるわけだが、最後まで読んでいただいた読者にこの言葉を送りたい。

「読了時間5分 ありがとうございました」

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