これまでになかった「箱型の授乳室」が、じわじわ増えている秘密 - イザ!

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これまでになかった「箱型の授乳室」が、じわじわ増えている秘密

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2~3年ほど前から、気になっている木製の「箱」がある。箱といっても高さは2メートル、幅は1メートル80センチもあって、壁面には哺乳瓶のイラストがどーんと描かれているのだ。

ショッピングセンターや駅の構内などでよく目にするので、ちょっと調べたところ、箱の正体は授乳やオムツを替えるための個室スペースになっている。ITベンチャーの「Trim」(トリム、横浜市)という会社が展開していて、商品名は「mamaro」(ママロ、1台250万円、リースは月4万9800円)というのだ。

既存の授乳室といえば、試着室のようにたくさん並んでいて、仕切りはカーテンのみ。カギが付いていないので、セキュリティ面で不安がある。数十年前からこのスタイルは変わっていないなあと思っていたが、ママロは箱型で内側からカギをかけることができる。また、畳1枚分ほどの広さなので、お母さんと赤ちゃんだけではなく、上の子どもも一緒に入ることができる。ソファとイスをつなげると、オムツを替えるスペースになるので、一カ所で授乳とオムツを替えることができるのだ。

「ほほー、それは便利そうだ。で、設置台数はどのくらいなの?」と思われたかもしれないので、調べてみたところ、ママロが登場したのは2017年のこと。その後、新型コロナの感染が広がって、商業施設が閉鎖に追い込まれる期間があったにもかかわらず、8月1日現在で290台が設置されているのだ。

しかし、ここで疑問が一つ。先ほど申し上げたように、トリム社は、創業15年のITベンチャーである。普段はアプリの開発などに追われているのに、なぜ箱型の授乳室をつくったのだろうか。同社は「Baby map」という授乳室やオムツ替えスペースがどこにあるのかが分かる地図検索アプリを手掛けているが、ある問題に直面していた。

「赤ちゃんは年に80万~90万人は生まれるのに、授乳室は全国に1万8000カ所ほどしかないんですよね。不足しているので、お母さんたちは見つけることが難しい。この問題を解決するには『Baby map』自体が不要になる世の中になればいいのではないか。このように考え、授乳室をつくることにしました」(長谷川裕介CEO)

「逆転の発想」ともいえるので、ストーリーとして面白い。しかも“ありそうでなかった”サービスが利用者にウケ、設置台数が増えている――。このように書くと、ビジネス誌あるあるの成功物語のように感じるかもしれないが、現在の立ち位置にいたるまでの道のりは平たんではなかったようだ。

開発は難航

箱型の授乳室をつくるにあたって、必要になるのは設計図である。高さ2メートルもある箱をつくったことがない長谷川さんは、「まあ、なんとなくこんな感じかな」といった具合に、職人さんに設計図を渡したところ、このように言われた。「こんなモノはできねえよ」と。

完成品のママロは可動式で、移動させることができる。当初からそのように考えていたが、設計図を見ると、床は平面になっていた。つまり、車輪を付けることができなかったのだ。また、箱のサイズを考えると、大きいサイズの車輪が必要になる。そうすると、当初考えていたサイズからどんどん大きくなっていたのだ。

このほかにも、まだある。耐えられる重さとして、女性100キロ、赤ちゃん3~4キロを想定していたが、安全性を考えれば、その数倍の重さに耐えられる構造にしなければいけなかった。部屋の中で子どもがジャンプするかもしれないし、壁をどんどん叩くかもしれない。あらゆることを想定して安全性に配慮した設計にしなければいけないのに、その視点がスコーンと抜けていたのだ。

「ああでもない、こうでもない」といった感じで、設計図を何度も何度も書き直す。そして、やっとのことで商品は完成。17年10月に発売したところ、いきなり2台も売れたのだ。

発売前、商業施設を運営する会社など10数社にアンケートを行った。ママロの使い勝手や導入したいかどうかなどの設問に対し、好意的な回答が多かった。この結果を受けて、長谷川さんは「これはいける! 資金調達も考えなければいけない」などと考えていたが、その後、6カ月ほど動きがパタリと止まってしまう。一体、何があったのだろうか。

「世の中にないモノ」だったので、担当者の反応はよかった。「ぜひ、ウチでも設置したい」といった声が多かったのに、いざ「決済」するとなると、話が違ってくる。担当者では決めることができないケースが多かったのだ。では、統括部長クラスはどうか。そこでも承認されず、役員の決裁が必要なところも出てきた。稟議書のハンコが押され、やっと一歩進む。しかし、次の担当者がハンコをなかなか押してくれない。

一進一退の状況が続き、その間にもたくさんの質問が手元に届いた。中でも頭を悩ませたのが「効果を数字で教えてほしい」である。先ほど紹介したように、当初、導入されたのは2台だけ。十分なデータが蓄積されていないこともあって、決済にどうしても“時間”がかかってしまったのだ。

設置台数が増えた背景

6カ月ほどたって、とある商業施設が採用した。そこでの利用者が多かったこともあって、「じゃあ、当社でも」「ウチも、ウチも」といった具合に、設置台数がどんどん増えていくことに。20年4月に緊急事態宣言が発出されたことを受け、その勢いはやや落ち着くものの、秋ごろになると再び上昇気流に乗った。

こうした経緯があって、商業施設などで箱型の授乳室を目にする機会が増えたわけだが、設置台数が増えている要因はどこにあるのだろうか。この質問に対し、長谷川さんは「導線を変えたことが大きい」と見ている。

既存の多くの授乳室は、子ども服売り場などの近くに設置されている。しかし、商業施設によっては、最上階の奥のほうにあって「利用したいなあ」と思っても、移動に時間がかかってしまうことがあるのだ。

なぜ、そうした場所に設置しているのかというと、施設運営側は「坪いくら?」の商売をしているから。人気店をたくさん集めて、そこにたくさんのお客を集めたい。しかし、授乳室は「人気」や「売り上げ」といった指標で測れるものではない。ということもあって、どうしても“一等地”に設置するケースが少ないのだ。

しかし、ママロは効果を検証することできる。例えば、人通りが少ないトイレの近くに設置したところ、利用者が想定よりも少なかった。なんとかしなければいけないということで、フードコートの近くに移動させたところ、5~6倍に増えた。こうした事例がどんどん出てきたのだ。

箱型授乳室の強み

ママロの最大の武器は、個人的に「データ」を取得できることだと思っている。例えば、化粧品売り場に設置すると、どういった結果が出るのか。化粧品売り場といえば、多くの百貨店は入口付近の最も目立つところに構えているが、そうしたところに授乳室はない(少なくとも筆者は見たことがない)。

一等地中の一等地に授乳室を設置することによって、利用者の滞在時間が長くなるかもしれない。滞在時間が長くなることによって、化粧品の売り上げにどのような影響があるのか。やってみなければ、分からないことができる。そして、データを集めて、それを分析することができる。そこに、この箱型授乳室の強みがあるのではないだろうか。

また、7月に発表した「ママロ2」では、子どもを寝かせると自動で体重を計測できるようにした。専用のアプリと連動させることで、子どもの成長を把握できるようにしたわけだが、こうした試みはどんどん増やすことができる。例えば、利用することでお母さんのストレスはどのくらい軽減できたのかなど、テクロノロジーとハードを組み合わせて、さまざまなことを試すことができるのだ。

最後に、今後の設置台数は? と聞いたところ「2~3年後に3000~5000台ほど設置したいですね」(長谷川さん)とのこと。現状、既存の授乳室は1万8000カ所ほどあるので、その数字を上回ることができれば、どういったことになるだろうか。

出かけるときに、わざわざ「トイレはあるのかなあ」と不安を感じて、場所を調べることはほとんどない。授乳室もトイレと同じような感覚で、「事前に探すことをしない」お母さんが増えれば、世の中がちょっとよくなりそうだ。

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