【ぴいぷる】競泳パラリンピアン・木村敬一 闇をかけ栄光をつかめ 3度目のパラリンピックで悲願の金メダルに挑む - イザ!

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競泳パラリンピアン・木村敬一 闇をかけ栄光をつかめ 3度目のパラリンピックで悲願の金メダルに挑む

 隆々たる体は、闇を泳ぐために鍛え上げられた。

 木村敬一(東京ガス)はロンドンとリオデジャネイロ、2度のパラリンピックで銀メダル3個、銅メダル3個を獲得した競泳のエースである。

 24日に開会式を迎える東京オリンピックで悲願の金メダル獲得に挑む。とはいえ、全盲の木村は、金メダルの色を知らない。

 「でも銀や銅ではだめなんです。金の輝き自体に関心があるのではなく、世界に自分より強い人がいないという事実が欲しいから。昔の自分を超えていきたいから」

 大会を前に、初の自伝を出版した。「闇を泳ぐ」。2歳で視力を失い、小学4年でスイミングスクールに通い、イアン・ソープに憧れた。12歳で故郷の滋賀県から単身上京し、水泳を自らの武器に2度のパラ大会に出場し、さらなる高みを目指して27歳で渡米した。

 万丈の半生を記してよどみなく、何より折々の人との関りを中心に描かれる微に入り細をうがつ圧倒的な記憶力に驚かされる。

 「人間の情報源は8割が視覚だといいます。それだけ僕の記憶にはスペースがあるのかもしれない。人の顔が覚えられない分、名前や会話が自分の記憶のベースとなっている」

 視覚以外が、全ての記憶となる。例えば、初めて体感した東京の街。

 《すれ違いざまに、何度も腕や肩がぶつかる。/香ばしかったり、甘かったり、様々な料理のにおいが漂い、無数の飲食店の気配がする。/全方位から聞こえてくる話し声、電車や車の音-。/東京のにおい。東京の音。12歳の春、僕はたった一人で上京した。》

 時に詩的であり、書き言葉と話し言葉の間を自在に行き来し、ユーモアを忘れない。文章で人を泣かすことは可能だが、笑わせることは難しい。悲鳴を上げたくなるシーンさえも、笑いで包む。影響を受けた本がある。「バッタを倒しにアフリカへ」(前野ウルド浩太郎著)。昆虫学者によるベストセラーだが、「すごいことをやっているのに、軽くて面白くて、それでいて臨場感があって、情熱が伝わってくる」。

 自身でも、そういう本を書いた。書くという作業が面白かった。書くことで自分がなぜ泳いでいるのか、整理することができた。泳ぐことで、自信を持って生きていくことができる。

 改めて一つ見えてきたのは、「やっぱり自分は自分のことがすごく好きで、どれだけ楽しい人生を送ってきたのだろう」ということだった。

 ポジティブな姿勢は、新型コロナ禍で開催が危ぶまれたパラ大会にも向けられてきた。

 「開催するための努力は社会を取り戻す努力につながる。ウイルスを封じ込めていく努力と、ほぼイコールだと思う」「僕は開催を信じている。これまでもパラに出たい、金メダルを取りたいと、実現できるかどうか分からないことを信じてやってきた。不確かなことを信じることは、わりと得意なんです」

 そう聞いたのは半年前だった。その大会が、まもなく始まる。

 著書の終盤に、こんなモノローグがある。

 《でもひとつ、知ってほしいことがある。/僕が生きてきた闇の中は、/僕が泳いできた闇の中は、/温かくて、居心地がよくて、とても幸せな場所だということ。/暗闇の中は、決して絶望にあふれてなんかいない》

 東京パラリンピックは、このことを知らしめる大舞台となる。

 (ペン・別府育郎 カメラ・鴨川一也)

 ■木村敬一(きむら・けいいち) 競泳のパラリンピアン。1990年9月11日生まれ、滋賀県栗東市出身の30歳。2012年ロンドン大会で銀1、銅1。16年リオデジャネイロ大会で銀2、銅2とパラリンピックで6つのメダルを獲得した。将棋も強い。

zakzak

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