高卒には「職業選択の自由」がない? 大卒より高卒の採用が難しい理由 - イザ!

メインコンテンツ

高卒には「職業選択の自由」がない? 大卒より高卒の採用が難しい理由

ITメディア
高卒就職者向けの合同説明会
高卒就職者向けの合同説明会

一見何の変哲もない「就職合同説明会」だが、一点だけ違っているところがある。教師と制服姿の高校生が一緒に企業を見て回る姿があちこちで見られることだ。これは、日本では非常に珍しい高卒就職者向けの合同説明会なのである。

高校生の新卒採用支援を行うジンジブ(東京都港区)が主催する「ジョブドラフトFes」は、今年度だけで全国10都市、延べ2100人以上(7月末日時点)の高校生が来場しているという。

東京で開催された会場に足を運んでみたところ、高卒人材の就職先として多い製造業だけでなく、大手チェーン系の小売店や飲食店のブースにも数多くの生徒が並ぶ。出店社の一つであるラーメンチェーン、町田商店を運営するギフトのブース前にはかわるがわる高校生がやってくる。同社の人事担当者は、「飲食業は高校生からは人気がない。でも、ウチでは大卒も高卒も変わらない。昨年は10人の高卒者を採用しました」と話す。

この日、1社だけ参加していたWeb制作企業の前には、高校生が説明を聞くために列をなしていた。デザイン・システム制作会社のOookey・CEOの菊地伸さんは、「今年初めて新卒採用を始めたのですが、高校生も採りたいと思って参加しました。1人か2人くらいブースに来てくれればいいかなと思っていたら、ひっきりなしに人が来て驚きました」と話す。

生徒からはこんな声が聞こえてきた。

「今日は同じ高校の就職組が集まって参加しました。ITを学んでいるんですが、それを生かせる会社があるかなあと」(男子生徒)

「飲食希望なんですが、学校では見つからなくて来てみました」(女子生徒)

学校あっせんを業種でみると、外食企業やIT、職種では営業職がそれぞれ少なく、高校生が企業説明を聞く機会があまりないのだ。

生徒を引率していた教師は、「求人票は大量に来るが、(あっせんしたことのない企業に就職させる)経験があまりないので、どの会社を勧めていいのか、よく分かりません」と胸の内を吐露する。

高卒には「職業選択の自由」がない

あまり知られていないが、大卒向けの合同説明会は一般的に行われているにもかかわらず、高卒向けの合同説明会はほとんどない。これは高卒者の就職の仕組みが影響している。

高卒採用の仕組みはこうだ。

大卒者の就職協定(大学・短期大学などの新卒予定者の採用活動解禁日を定めた)、行政(旧・文部省・旧・労働省)、経済団体(経団連など)、学校による三者協定は1996年に廃止されたものの、経団連加盟企業では毎年3月に採用情報を公開し、6月に内々定を出すルールになっている。実際にはインターン制度など青田刈りを行うことができる環境にあるため、ルールは形骸化していると言ってよい。

しかし、高卒者の就職協定はいまだに残っている。行政(文部科学省・厚生労働省)、経済団体、学校団体の三者協定で、7月から8月の間に就職活動を行い、9月に応募が開始するという仕組みだ。

就職活動といっても、生徒が求人票を見ながら自由にあちこちを見て回ることができない。多くの高校生は学校に届く「求人票」の中から先生にお勧めの求人を紹介してもらう。企業側の求人票は、直接企業が学校に訪問もしくは郵送して高校進路指導教員のもとに届く。教師は学校に届いた求人票の中から、生徒に志望先企業を勧める。これが、学校あっせんの慣習である。

加えて、自由に就職活動ができるかというと、そうもいかない。9月の応募開始時に、高校生が応募できるのは原則一人一社と決まっており(秋田・和歌山・沖縄は複数応募可能)、10月以降に一人二社応募が可能になるところが多い。ごく一部が就職先を自己開拓するが、ほとんどが縁故採用だ。

企業が高校の紹介を受けて高卒採用をするためには、まずハローワークに求人票を登録し、それをもとに学校を通じて先生や生徒に求人情報を届ける。逆に言うと、9月の応募ルートに乗せるにはこれしかない。

生徒に情報を提供するのは学校の進路指導教員だ。求人票の中から学校が選抜した企業の情報を、基本的に成績や生活態度などを勘案して該当する生徒に提供する。生徒は学校が紹介した企業の面接を経て内定を得る仕組みだ。これは高校を卒業した生徒ほとんどが就職できるメリットがある半面、実質内定辞退がしにくく、マッチングがうまくいかなかった場合には早期離職という結果になる。

高卒市場の問題点

厚労省の「新規学卒者の離職状況」によると、全国で高卒者は年間17万人前後だが、1年未満の離職者は最新の数字で16.2%(2019年3月卒)だ。景気の良い時期では1年未満の離職が2割を超えている。高校生が平等に就職機会を得られ、多くの高校生が内定を得ることができる仕組みとして生まれたルールではあるが、半面、高校生の自己選択を狭めたり、早期離職が多くなったりするといったデメリットも存在する。

「高校の場合、先生が紹介した企業に行かざるを得ない。その多くは製造業のブルーカラーです。実際にはIT企業やベンチャー企業、あるいは営業職などで引き合いは多いし、希望する高校生も多いのですが、そうしたところは学校と付き合いがない。そこでアンマッチが発生し、早期離職につながっている」とジンジブ社長の佐々木満秀さんは高卒市場の問題点を指摘する。

ジンジブは、企業と学校のやりとりをサポートしたり、高卒専用求人サイト「ジョブドラフトNavi」で情報提供を行ったりする「ジョブドラフト」というサービスを運営している。冒頭の合同説明会もそのサービスの一つだ。

ジョブドラフトNaviを使えば、今までは求人票すら見ることがなかったかもしれない生徒たちが、より多くの企業の募集情報を自分で探すことができる。また、自分が就職したい企業が見つかったとき、その求人票をダウンロードして学校にあっせんを依頼することや、ジョブドラフトNaviを通じた職場見学エントリーができるようになった。

もちろん学校あっせんの一人一社応募と違い、自由応募となれば選考を通らないケースも出てくる。それがリスクであると思えば、今まで通りの仕組みで就職すればいい。単純に学校あっせん以外の就職活動のルートができることは、高校生にとっては企業選択のチャンスが増えた、という理解が正しいだろう。

30年前と今、高卒者に何も変化がなかった衝撃

佐々木さんも高卒で社会に出た一人だ。就職時に教師から紹介にされた会社に不服があったが、「素行が悪いからここしか行けない」と宣告されたのだ。

佐々木さんは卒業後にその会社に入ったが、すぐに辞めてしまい、そこから流転の生活を送る。長距離トラックの運転手に転身したものの、その過酷な働き方に疑問を持ち、声をかけてくれた中小企業の社長のもとに転職。その会社は社長の放漫経営がたたって資金繰りが綱渡りのブラック企業だったが、佐々木さんの営業能力を見抜き、学歴ではなく実力を評価して役員にまで引き上げてくれた。とはいえ、結局倒産してしまう。

手痛い経験の反動から、人を大事にする企業を作りたいと一念発起して起業し、そこから中小企業の社長として増収増益を続けることになった。まさに「成り上がり」人生だ。

ただ、自身を「コンプレックスの塊」と話す佐々木さんは、会社の経営が安定しているにもかかわらず、高卒時の苦い経験を忘れられずにいた。

つらい記憶が呼び戻されたのは、2014年に採用や教育を行う人材会社として立ち上げた子会社(当時)・ジンジブの社長に、「大卒ではなく高卒を採用しないのか?」と尋ねたときだった。当時佐々木さんの会社は大卒2万人のエントリーがあったにもかかわらず、高卒の採用はやっていなかったからだ。

社長はこう返事した。

「高卒は採れません。一人一社、学校から推薦された企業にしか行けないんですよ」

佐々木さんが就職したときから30年の月日が流れている。それにもかかわらず、高卒採用の状況は全く同じだったのだ。

「それはおかしい。できないというなら、自由に就職できるように、僕たちがやらなあかんやろ」

ジンジブの社長はなかなか首を縦に振らなかった。なにせ、”ゼロマーケット“である。市場性を考えたら踏み込めない。

「大卒マーケットはレッドオーシャン。ベンチャーや中小企業に人を送らないといけないのだから、これからの社会は絶対に学歴は関係なくなる。市場なんてなくていい。作れるから」――佐々木さんの6回目の説得で、ようやく社長は折れた。

リクルートも寄り付かない不毛の地「高卒市場」

15年8月、ジンジブは高校生に特化した求人メディア「ジョブドラフトNavi」を立ち上げることにした。簡単に言えば、高卒版「リクナビ」である。

ただ、リクルートが高卒市場に参入していないのには理由がある。もうからないからだ。広告掲載料は取れたとしても、学校を通じた一人一社ルールでは、紹介手数料で稼ぐビジネスが成り立たない。また、もともと高卒者は大卒者よりも少ないため、市場として小さい。

それでも、他ではやっていないサービスであるため、高卒採用に興味を持ってくれた企業が出稿し始めた。とはいえ、システム構築にも金がかかる。「6年で7億円損した」と佐々木さんは苦笑いだ。

そもそも、なぜ一人一社ルールが続いているのか。佐々木さんは、「三者にとって都合がよかったから」と指摘する。ここでいう三者とは、先に述べた就職協定をつかさどる行政(文部科学省・厚生労働省)、経済団体(経団連など)、学校団体(全国高等学校長協会)のことだ。

「まず、文科省は学業を優先したい。厚労省は就職をさせないといけないので、ほぼ内定が取れる今の仕組みを変える必要性を感じない。学校団体は進学のほうに力を入れているため、全体の2割程度の就職組に時間をかけず、絶対に受かるところを受けさせるほうが楽なんです。自由応募になるとめちゃくちゃ手間がかかりますから。

また、経済団体には製造業が多い。大卒からブルーカラーの人材を確保するのはとても難しく、高卒からそれを補いたいという意図がある。そうして誰も仕組みを変えることがなかった。でも、当事者にとって一番いいルールにしないといけない」(佐々木さん)

サービスを運営するのと並行して行政へも働きかけた。「高卒者には憲法で守られた『職業選択の自由』がないのではないか」と主張を続けた結果、19年には厚労省で「高等学校就職問題検討会議ワーキングチーム」が立ち上がり、第2回の同会では佐々木さんも関係者として提言を行った。その結果、一次応募の時点から複数応募・推薦を可能とするパターンも文科省から提案され、21年度から和歌山県では複数社応募が可能になるなど、変化が見られる自治体も出てきた。

「就職のために大学に行く」意義を問う

こうした活動をしている間に、佐々木さんのプライベートでも事件が起こった。高卒で就職を予定していた息子さんが、「『お前はここへ行け』と先生に言われたけど、まったく行きたくない」と連絡してきたという。息子さんは「素行が悪かった」ようで、本人の意に染まぬ企業を学校から提示されたのだ。行きたくないと言っても無駄だったようだ。

素行が悪いとはいえ、子どもの将来の可能性は信じたい。学校にも「なぜここしかないんですか」と直接問いただしたが、「もうこれは決まってるんですよね。他は枠がない」とけんもほろろだった。

マーケットのなかった高卒採用の分野だが、ジョブドラフトを利用する新規企業は毎月100件近くあり、今年度は黒字化が見えてきた。

当初、ジョブドラフトは情報提供だけだったが、合同説明会の開催やジョブドラフトNaviを通じた求人票のダウンロード、職場見学エントリー、対面またはLINEを通じた高校生からの個別相談も受け付けるなど、高校生の就活をサポートする。

「先生は求人票をあまり見ていない。先生経由で高卒採用の仕組みを変えるのは難しい。学校の先生に選んでもらえるように菓子折りをもってあいさつに行くような企業は少なくて、そんなことをするくらいならお金をかけて大卒を取りに行くことが現実なんです。そういう背景もあって、ウチに注目する企業が増えているのだと思います」(佐々木さん)

佐々木さんがその先に見据えるのは、高卒人材のネクストマーケットだ。リクナビにも若手転職者向けの「リクナビネクスト」があるように、高校卒業から大学中退者を含めた転職希望者が存在する。先述のとおり、アンマッチによる離職率も高い。彼らに向けた転職支援を始めるという。

高校を卒業して新卒として就職する生徒の多くは「自立したい」という理由を挙げるが、家庭の経済的要因も大きく影響していると佐々木さんは言う。だが、高卒者の職業の選択肢が広がっていけば、大学進学を選ばない高校生も出てくるに違いない。

「今は、大学に行けば就職がある程度選べるようになるので、やりたい仕事を選ぶために500万円を使って大学を出る人もいます。そのうち半分は奨学金を借りるわけです。でもそこにお金を使うなら、早く社会に出て勉強をする選択肢もある。社会に出てから大学に通う人もいる。

大学に行くことに反対しているのではなく、高卒での自由な就職という道が生まれることで、大学に行く意味をしっかりと考えられるようになるのではないでしょうか」

相馬留美(そうま・るみ)

経済誌記者、ベンチャー企業の上場準備室を経てフリーランスに。現在はビジネスメディアを中心に産業・企業に関する記事を執筆する一方で、フリーランスの活躍を後押しする活動に従事している。

関連記事
  1. 日本、韓国のTPP加入「拒否」へ 「元徴用工」への異常判決に対抗措置
  2. 【年のはじめに】中国共産党をもう助けるな 論説委員長・乾正人