「ツイートを理由に退職処分」は適切だった? ホビージャパン問題から考える、社員の不適切SNS問題 - イザ!

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「ツイートを理由に退職処分」は適切だった? ホビージャパン問題から考える、社員の不適切SNS問題

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ツイートに対する処分としては、重すぎた?(画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ)
ツイートに対する処分としては、重すぎた?(画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ)

7月末、総合ホビー雑誌『月刊ホビージャパン』の出版元であり、模型・玩具の販売なども手掛けるホビージャパン(渋谷区)は、同社の編集者が、自身のSNSにおいてプラモデルなどの買い占めや転売を容認する発言を行ったとして、当該編集者を退職処分としたほか、常務取締役など監督者3人を降格させたことを発表し、話題となった。

当該編集者は7月23日、自身のSNSにおいて「転売を憎んでいる人たちは、買えなかった欲しいキットが高く売られているのが面白くないだけ」「頑張って買った人からマージン払って買うのって、普通なのでは」などと発言。また別のコンテンツ配信サービスでも「転売している人は、買えなかったあなたよりも努力してそれを勝ち取った」「希少価値がついたものは、誰でも複数欲しくなる」といった、転売や買い占めを容認する趣旨の書き込み(現在はいずれも削除済み)を行っていた。

これらの投稿を受け、ネット上では「自社でプラモデルを販売し、取引先にも玩具メーカーが多くあるのに、転売を容認するのか」などと一気に批判が起こり、炎上状態に。当該編集者は投稿内容を撤回し謝罪した上、ホビージャパンも事態を受けて「(顧客の)ホビーに対する思いを裏切る事態になった」「当社としての考え方とは全く相いれるものではなく、ホビーに携わる人間としてあってはならないもの」として謝罪し、会社や編集部としては転売や買い占めを容認していないと明言。編集者を社内規定に従って処分する方針を示していた。

そして7月26日、同社は当該編集者を退職処分、管理監督者をそれぞれ譴責(けんせき)した上で、常務取締役編集制作局長を取締役に、『月刊ホビージャパン』編集部編集長を副編集長に、副編集長をデスクにそれぞれ降格したと発表した。

一部には「処分が厳しすぎる」といった声も

世の中の反応を見る限り、ホビージャパンの迅速な対応を評価するものが多かったようだが、一部からは「一社員のプライベートなSNS投稿だけで退職処分なんて厳しすぎる」といった意見や、専門家からも「懲戒権のらん用では」「会社は不当解雇で訴えられても文句を言えないのでは」といった指摘が見られた。

そもそも懲戒処分とは、組織の秩序維持のために、何らかの違反に対して科せられる制裁のことだ。

懲戒処分の中では「懲戒解雇」が有名だが、その他「戒告、譴責」(口頭注意)、「減給」、「降格」、「出勤停止」といったものも懲戒処分に含まれる。

「どのような懲戒処分を設けるか」については基本的に各企業の自由だが、だからといって企業は「自由に懲戒できる」というわけではない。懲戒処分はあくまでも制裁罰であるため、懲戒の理由と処分内容のバランスを慎重に判断されることになる。例えば「遅刻を1回した」だけとか、「ちょっとしたミス」程度で懲戒処分を下すと、それは「懲戒権のらん用」に該当し、処分が無効となってしまう決まりがあるのだ。

労働契約法

第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

実際、「退職処分」は厳しすぎた?

ホビージャパンが下した「退職処分」とは聞き慣れないが、おそらく懲戒処分の一つである「諭旨退職」のことと思われる。これは解雇相当の重大な規則違反ではあるが、懲戒解雇よりは幾分温情的な措置として行う処分である。双方の違いは次の通りだ。

懲戒解雇:即日解雇。退職金や解雇予告手当の支給はなく、離職票の離職事由にも「懲戒解雇」と記載され、再就職先にも懲戒処分を受けたことが明らかになる厳しい処分

諭旨退職:処分対象の社員に、自主的に退職届を提出するよう促す。自己都合退職扱いとなり、退職金も支給されることが多い。懲戒ではあるが、1段階軽い処分

とはいえ、諭旨退職自体が最も厳しいレベルの懲戒処分であり、本来であれば「刑事罰相当の罪を犯したとき」「重要な機密を故意に漏えいしたとき」「架空取引や不正会計で会社に損害を与えたり、信用を損なったりしたとき」といったレベルの問題行動に対して下されるものである。今般はそれが「プライベートSNS投稿」に対して下されたわけだから、「厳しすぎる」との意見も一理あるかもしれない。

恐らく本件は、そのような批判があることも想定の上で、あえて下したギリギリの判断ではないかと考えられる。ではなぜ、ホビージャパンは批判リスクを冒してまで、こうした厳しい処分を下したのだろうか。

その理由は、例え当該社員から「懲戒権らん用だ」「不当解雇だ」と訴えられたり、その裁判で会社側が負けて解決金を支払ったりする結果になったとしても、迅速に処分を下して取引先や関係者にケジメをしっかりつけなければ、会社存続が危うくなるレベルの厳重処分案件だったためと考えられる。

いくら「単なる一社員」のプライベートSNS投稿だったとしても、当該社員は「ホビージャパン編集者」と身分を明かしており、「社員の意見=会社の見解」と認識されるリスクがあった。加えて、不正転売対策に業界を挙げて取り組んでいる中、ホビージャパンは多くの玩具メーカーと取引があり、また自社でも玩具販売している会社の社員が転売容認発言をすることは、取引先各社から強い批判を招く恐れがあったといえる。

こうした、目に見えたリスクを適切に危険視して、相対的には「厳しい」と見られてもおかしくないような処分を下したホビージャパンだったが、処分が発表されて以降、炎上は沈静化し、騒動自体も終息している。リスクを負ってでも素早く対処した成果といえるだろう。

そもそも、会社はどこまで規制できるのか

このような事案を見て、「わが社でも不用意なSNS投稿を規制しなければ」と考える方も多いかもしれない。しかし、不適切な投稿に対して即座に懲戒処分を発動できるというわけではない。あくまで、必要なのは「周到な事前準備」なのだ。

そもそも会社が懲戒処分を行うためには、まず就業規則において「懲戒規定」を設け、「社員がどんなことをしたら懲戒されるのか」という「懲戒事由」を決めておかねばならない。従って、就業規則が存在しなかったり、存在しても懲戒規定や懲戒事由の記載がなかったりする場合は、懲戒処分を下すことがそもそも不可能なのだ。

加えて、今般のケースにあるような、第三者への誹謗中傷や情報漏えいにまつわるSNS投稿を抑止するものとしては、例えば次のような規定が必要になる。

第n条(訓戒、譴責、減給、出勤停止及び降格)

以下の各号の一に該当する場合は、譴責、減給、出勤停止、または降格にする。

-職務上の指揮命令に従わず職場秩序を乱したとき

-素行不良で、会社内の秩序又は風紀を乱したとき

-会社及び会社の従業員、又は関係取引先を誹謗もしくは中傷し、又は虚偽の風説を流布、喧伝し、会社業務に支障を与えたとき

-会社及び関係取引先の秘密及びその他の情報を漏らし、又は漏らそうとしたとき

もし、現在SNS投稿に関する規定がない場合は、今からでも就業規則の懲戒規定にSNS投稿も含めるように改訂することになるだろう。では、具体的にどんな内容で懲戒になるのか。

答えは「当該企業が、どのような懲戒規定を設けているか次第」となる。極端な話、「上司への悪口や会社へのダメ出し投稿は懲戒処分にする」と規定し、その通りに運用すれば懲戒になるし、規定を設けなかったり、規定にあったとしても会社が積極的に処分しなかったりすれば懲戒にならない、ということだ。

一般的に、単なるグチや、個人や会社が具体的に特定できない程度のものであれば、懲戒に至らないことが多い。一方で顧客の個人情報を漏えいさせたり、第三者の名誉を毀損(きそん)する内容であったり、会社の信用が低下して金銭的な損害を被ることになる場合は、当該社員は損害賠償責任や、場合によっては刑事責任を負うことになる。当然ながら懲戒処分対象にもなるだろう。

投稿によって名誉毀損や情報漏えいなど実害が発生している場合は、当然ながら、投稿者の身元が調査・特定されることになる。匿名アカウントであっても懲戒処分は避けられないだろう。従って、ダメ出しが事実だとしても、それによって会社が被害を受ける場合は、名誉毀損が成立する可能性もある。もし、不正を明らかにしたいのであれば、SNSへグチるのではなく、公益通報すべきであろう。

「社会通念上相当」をどう考えるか

ドラマやマンガなどでは「懲戒解雇だ!」といったせりふを目にすることも多い。しかし実際の懲戒解雇は、会社に重大な損害を与えるレベルの刑事罰に相当する罪を犯し、当該社員が事実を認めた場合にようやく適用されるような「抜かずの宝刀」的な存在であり、あくまで例外的な手段という位置付けだ。なぜなら、先述の労働契約法15条に定められた「懲戒権らん用法理」というものがあり、懲戒解雇が有効かどうかに関しては普通解雇よりも厳しい判断がなされるためである。

懲戒解雇の適用基準は厳しく判断されるが、それ以外の訓戒、譴責、減給、出勤停止、停職、降格などにはある程度会社の裁量権が認められている。懲戒対象となるような問題行動を繰り返す社員であれば、段階的に懲戒のレベルを上げていけばよい。そして問題行動が発覚したら、直ちに「警告書」や「注意書」といった形で文書で注意指導し、上司側では「指導記録書」を作成しておくのだ。

これによって具体的にどのような問題行為があったか、周囲にどのような悪影響を与え、どんな指導をしたかといった記録を重ねておくとともに、期日を定めて本人からも「始末書」を提出させ、反省と改善の意を表明させるとよい(当然ながらそれらの記録は人事評価にも用いられ、「昇給/昇格の据え置き」や、場合によっては「降格/減給」といった形として反映することになる)。その上でまだ改善が見られないようであれば、処分を段階的に次の「減給」、そして「停職」などへと重くしていくのだ。

また、そもそも懲戒処分にこだわる必要もない。本当に社外にも迷惑を掛け、会社に損害を与えるような問題行動があったのであれば、当該社員に対して法的措置をとればよいのだ。民事上の不法行為に基づく損害賠償請求や、名誉毀損罪などで刑事告訴を検討することも検討すべきである。

組織が人事権を行使するに当たっては、公正さと慎重さが不可欠である。特に懲戒処分を下すとなると、従業員の生活にも多大な影響を及ぼす可能性があるため、一方的に行ってしまうとかえって「不当労働行為」だとして、従業員側から損害賠償を請求されるリスクもあるのだ。企業側は、問題となっている事象の重大性や頻度などを考慮した上で、下すべき処分を慎重に選択しなければならない。そのためにも就業規則はきっちり整えておき、従業員には説明を尽くし、不要なトラブルを生まないように心掛けておきたい。

著者プロフィール・新田龍(にったりょう)

働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト

早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員関連のトラブル解決を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。著書に「ワタミの失敗~『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)他多数。

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