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日本の若者が留学せずに「内向きになっている」のは本当か

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日本人留学生は減っているのか
日本人留学生は減っているのか

新型コロナによって国家間の往来が遮断されたことで、国際ビジネスなどでは大きなダメージが出ている。ビジネスに限らず、各方面でコロナ禍の余波を受けている人たちがいるが、例えば、日本人留学生たちの状況も悲惨だ。

昨年、カナダに留学していた知人の家族は、留学中なのに学校に通えず、ホームステイ先で何カ月も過ごす状況だったという。他の国でも多くの留学生が、学校にも通えずリモート授業を受けなければいけない状況に置かれていた。

しかし世界的に新型コロナが落ち着きを見せ始めていることで、各国は、日本人を含む外国人留学生の受け入れを再開しつつある。

近年、これまで以上に世の中がグローバル化するのに伴って、世界各地で留学生が増加傾向にある。例えば、米国、中国、インド、韓国などで増えている。中でも米国では、新型コロナの前には、海外へ留学する学生が増えていて、2016年から17年には2.3%増だった。

これに対して、近年、日本人留学生が減少しているというニュースをよく見かけるようになった。その理由として、「若い日本人が内向きになっているから」などと指摘している記事が多い。

本当にそうだろうか。文部科学省は21年4月にこんな発表をしている。「短期留学・語学留学、海外インターンシップなど単位取得を伴わない留学も含めた高校生、大学生の留学数は年々増加していましたが、2019年度は減少に転じました」。

新型コロナの感染拡大を受けて、留学生が減ったことを述べているのだが、注目すべきはそこではない。「単位取得を伴わない留学も含めた高校生、大学生の留学数は年々増加」という部分だ。つまり、日本の留学生は増えてきたのである。「内向き」にはなっておらず、多くが「外向き」になっている。

日本人留学者数は増加傾向に

筆者も昨年だけで、留学の相談を2件も受けた。海外に興味のある人は少なくないと感じていたので、「内向き」という意見に違和感があった。それが数字でも明らかになっている。

筆者としては、特にこれからの日本を支えていく人たちには留学をオススメしている。大学生から相談を受けた際も、そう答えた。その理由は、そうしないと、日本は間違いなく世界に置いていかれることになるからだ。ビジネスの世界でいえば、これまで以上にグローバル化が進むことが予想されるので、グローバル意識をもった人たちが少なくなると、日本の将来にマイナスな影響を与える可能性がある。

日本人はいま、どれほど海外留学しているのか。文部科学省によると、短期留学や語学留学、海外インターンシップなど単位取得のない留学も含めた状況は、19年度で、10万7346人になる。この数は、前年度と比べて、7800人減少しており、6.8%減となる。

ただこの数字は、新型コロナの影響で渡航できなかったことが大きい。事実、それまでの推移を見ると、日本人留学者数は増加傾向にあった。09年の3万6302人から年々増加していて、18年には11万5146人になっている。

その一方で、こんな数字もある。単位取得のある大学や大学院など高等教育機関への留学者数だ。その数は減少している。大学や大学院などへの長期留学をする日本人は、18年が5万8720人。高等教育機関への留学は、04年の8万2945人をピークに減少している。

留学生というのは、学校で単位を取得する人たちだけではない。そう考えれば、この数字をもって、「留学生が減っている」「若者が内向きになっている」というのはいかがなものかと思う。単位を取らなくとも、国外での生活に興味や意義を感じて、留学しているのである。グローバルな視野を得るのに、単位は必要ないのではないか。旅行で数日または1~2週間海外に滞在するのは違う。

クリティカルシンキングを学ぶ

筆者は、高等教育機関だけでなく、単位を取らないような留学であっても、どんどん国外に出ていくべきだと考えている。でないと、日本という島国の外で暮らす人々のことを理解も想像もできないだろう。そうしたグローバルな感覚がなければ、ニュースの理解度すら変わるからだ。

また、英語圏だけが留学先ではない。これまでは米国やカナダ、オーストラリアなどが多かったが、最近では、中国や韓国、台湾、タイ、フィリピンなどアジア圏への留学者数が増加している。一方、米国への留学者数は減少しているという。

留学は就職などにもメリットがある。海外の学生も留学経験は有利に働く場合が多いようで、アイオワ州立大学の世界言語・文化学部の学部長であるチャド・ガスタ教授は、米メディアへの寄稿でこう書いている。

「私が10年以上をかけて行ってきた研究によれば、留学経験のある学生は、そうでない人と比べて、物事を批評的に見ること(クリティカルシンキング)ができ、問題を解決する能力も優れ、起業家精神もあり、コミュニケーションのスキルもある。異なる意見などにも寛容で、理解力も高い。芸術や社会問題、世界の出来事にも深い理解を示す。自分自身と自分の生活についても深く洞察している。留学生は、企業トップの仕事に売り込みやすくもある」

ここで出てくるクリティカルシンキングというのは、米国の教育でよく聞く言葉である。物事を批判的に見るのは、アカデミックな世界の基本であり、企業で働く際にも大事なクオリティーであると言える。また、米国の大学のジャーナリズム学部で最初に学ぶことの一つが、このクリティカルシンキングだったりする。

留学生を積極的に採用

企業も留学経験者に価値を見出している。例えば、米国のグローバル企業であるグーグルやマイクロソフトなどは、留学生は母国語以外の言葉を理解し、グローバルな視点で世界のビジネスを見る感覚があるとして、留学生を積極的に雇っているという。

日本でも、文部科学省の調査によれば、「企業採用担当の63.6%が留学経験者を今後積極的に採用していきたい」としている。

グローバルな感覚という意味では、こんな話もある。筆者がシンガポールで暮らしていたときに、現地の知り合いはこのように言っていた。「英語を母国語とする人でも、海外に頻繁に旅行したり、一定期間海外で暮らしていたり、こうした経験がある人は、英語が母国語でない人の発音――つまり、訛(なま)りのある英語でもきちんと聞き取ってくれる」と。

逆に、この知り合いがかつて米国の田舎の大学に留学した当初は、シンガポール訛りの発音がきつかったので、英語をきちんと理解してもらえないことが多かったという。その知り合い曰く、「そこの地域では、海外留学や海外赴任などの経験者が少なかったからではないか」と指摘していた。

この意見に、筆者も同意する部分が多い。グローバル経験の豊かな人ほど、訛りのある英語を聞き慣れている。そうなると、世界中でコミュニケーションが円滑になるだろう。これは英語だけではなく、他の言語でも同じことが言えるのではないだろうか。

コロナ禍が落ち着けば

筆者は無条件に「留学が素晴らしい」と言っているわけではない。留学費用は安くないし、言葉も文化も違う新しい環境で生活するのはストレスも大きい。留学したからといって、自動的に言葉が話せるようになるわけでもない。現地の大学などに通うとなると、授業についていくのも大変である。

留学経験がない人でも、日本を代表するような成功者もいるし、そもそも高等教育を受けていなくても、偉業を成し遂げた人も少なくない。

ただその一方で、失言が多い日本の政治家は、グローバル感覚が希薄な人が多いと感じる。また、会社の役員クラスでも、「それはちょっと……」と感じることを言うケースがある。そういった人たちは、世界の潮流をつかみ切れていないのではないだろうか。1年ほど留学して海外で暮らしてきたら、彼らの口からこれまでのような暴言はもう出てこないかもしれない。

「海外で学ぶことは価値がある」――。このようなことを言うと、古臭いと思われるかもしれないが、先進国を含め世界中の学生やビジネスパーソンが、国外に飛び出して学んでいる。

いったん、職を離れて留学するのもいい。コロナ禍が落ち着けば、日本人もどんどん留学を再開してみてはいかがだろうか。

筆者プロフィール:

山田敏弘

元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。

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